嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お爺さんが山道をトコトコトコ行きよんしゃったてぇ。

そいぎぃ、白か鼠ば子どんが、「ワイワイ、ワイワイ」言うて。

そうして、叩【たち】ゃあたいないして、

いじめおったちゅうもんねぇ。

一【ひ】人【とり】ゃ首んところば、

こう、わんぐい【輪マワシ】作って、

生け捕いしゅうで思うて、括【くび】ろうでしおったいどん、鼠が、

「キューキューキュー」て、助けば呼うで、

ほーんにきつかごとしとったて。

「あんた達ゃ何【なん】しおんねぇ」て言うて、

お爺さんが見たら、子どんは、

「珍しか白か鼠のおったけん、生け捕いしゅうで思うて」て、

言うてやん。

「冗談【ぞうたん】のごと、白か鼠やねぇ、

大黒さんのお使いていうとよ。

ぎゃーん鼠ば、あんた達ゃいじむっごとなん。

お爺さん、こけぇちいっと【少シ】お金ば持っといどん、

こいばだあ、飴どん買【こ】うて食べやい。

お爺さんに、このお金で白か鼠ば売ってくいやい」て、言うだぎぃ、

「ワイワイ。良か良か。うん、飴玉が良かあ」

て、子どん達が言うて、

「そいぎぃ、お爺さん、お頂戴」て言う、

お金ば皆が貰って。

そうしてもう、雲の子散らすように、

その場から行ってしもうたて。

そいぎねぇ、お爺さんは、

「お前【まい】、ぎゃん人目につくような所におっけんが、

あの、いじめられたいすっ」て。

「もう、子供につかまらんごと、あっちの方へ行っとけぇ」て言うて、

何【なに】かに諭【さと】すように、「

こんな可愛か滅多になか大黒さんのお使いじゃったとこれぇ、

ぎゃん所【とけ】ぇ出て来【く】っけん」て。

「もう、人目にふれんとけぇおらんばねぇ」て言うたら、

白鼠の、

「有難うございました。お陰で命拾いをいたしました。

有難うございました。

実は、今日助けていただいたお礼に、

私の家【うち】にぜひ来てください。ご案内いたします」

て、その白鼠が言うてじゃもん。

「そうねぇ。あいどん、家の婆さんが待っといどん、わからんどんねぇ」

言うたけど、

「長くは手間はとらせません。

どうぞ、お出でください」ち言【ゅ】うて、

ズウッとその山道を下【くだ】って行ったぎぃ、

大きな洞穴【ほらあな】のあったて。

「お爺さん、ここをチョッと屈【かが】んで入【はい】ってください」

て、言うてから、

その穴ん中にお爺さんは言わるっごと入って行きんしゃったて。

そいぎぃ、

ズウッと道のきれいかとのできて、

奥に行たぎぃ、立派か家の御殿のごたっとのあったて。

そして、その白鼠が、

「ただいまー」て言うたぎぃ、

「おう、帰ったか。待っていたぞ」て言うて、

奥に位【くらい】のあっごたっとの、奥から出て来て、

「実は、私は命を落とすところじゃったけれど、

このお爺さんに命を助けてもらいました」て、白鼠が言うたら、

「ああ、そうか、そうか。

お爺さん、本当に有難うございました。

あの、この子の言うように、

ほんに無事に帰ってくれたのを私達待っていました」て言うて、

その老人は、

「どうぞ、どうぞ。奥に上がってください」ち言【ゅ】うて、

奥座敷に通らせられたら、

もう、ありとあらゆる美味【おい】しいお酒の出る。

美味しいおご馳走もいっぱい出た。

「こんな美味【おい】しい物、食べたごとなかったあ」

お爺さんはもう、皆から良くもう、

持て成されて腹いっぱいご馳走になって、

「本当に、こんなにお礼に及ばなかったのに、有難うございました。

本当に、スッカリお世話になってしまいました。

お婆さんが待っとるからお暇【いとま】をいたします」て、言んさった。

「そうですか。

そいではあの、これをあの、

お爺さんに、あの、おみやげに差し上げます」ち言【ゅ】うて、

小さな小さな片手の上に、

掌【てのひら】にのるような小箱をお爺さんにくださった。

そうして、

「小箱の蓋【ふた】を開けてねぇ、

お願いを、いちばん欲しいお願いを三つだけ言うと、

そのお願いが適【かな】えられるんですよ。

三つですよ。三つ以上は願いは適いません」

て、こう、その時【とき】念を押して、言いんさったて。

「こんなおみやげまで、有難うございました。

本当に、おみやげまで戴いて、お世話になりました」

て言うて、

もう目を開けた時には、もう山道です。

洞穴ではない。その御殿も消えてなかて。そいぎぃ、トボトボと帰って、

「ただいま」て言うと、お婆さんが、

「お爺さん、今日は遅【おす】かったねぇ。

私ゃ心配しよった。怪我でもせんじゃったろうかち、

心配して待っていましたよ」と。

「いんにゃあ。心配どころか、良かことのあったとよう。

チョッと聞いてくいさい」て言うて、

今までの経緯【いきさつ】ば話して、

「そこに、小【こま】ーか箱ば置いて、

ほんなこと夢じゃなかね。

こけぇ、こいのあるもんで、

『そいで三つだけねぇ、願いば言うぎぃ、その願いが適えらるっ』てぇ。

何じゃいろうかあ」て、お婆さんと相談したら、お婆さんが、

「そうねぇ」て。

「何【なん】でも一つ、

心配のなしに安心して暮らさるごとが、私どんの願いじゃなかあ」

言んしゃった。

「そいが願いになる。安心して暮らさるっ願いじゃんもん」て。

「その次には、健康な病気せん体ば、

達者か体ば持ゃとっごとが良かたいねぇ」て、

お婆さんが、「こいも願いじゃん。

病気せんごと立派か体に。

後にもいっちょん病気も、もう二【ふ】人【たい】も病気も。

お爺さんも、お婆さんも達者かごと」

「そいどん、お婆さん、

お金のなかとが、いっちゃんやっぱ辛【つら】かねぇ」て、

言んしゃった。「お金がまちかっと欲しかねぇ」て。

そいぎお金の、ザクザクザクて、山んごと出てきたて。

そいぎぃ、そのお金を大切に使【つこ】うて。

それから、ほんにあの、屋根の漏いよったとの修理【しゅうい】をし、

壁の破れとった所を、あの、板で塞【ふさ】いで。

そいからは裕福に暮らしんさったて。

何【なん】でん裕福になったて。

そいぎぃ、その隣の方に欲張りの爺さんと婆さんが、こいを聞いて、

「何【なん】でお前【まい】達ゃそがん、楽な暮らしになったねぇ」

て聞く。

「実は、こりゃ言わじおったいどん、

鼠ば子どんがいじめおったもんねぇ。

そいぎぃ、そいば助けたぎぃ、鼠から、ぎゃん、

三つ願いのついたあ箱ば貰うた」と言うて、話しんしゃった。

「そいぎねぇ、そがんやあ【ソウデスカ】」と言って、帰って、

「実は、『あの、鼠からあの銭【ぜに】ば貰【もろ】うた』て言う、

三つの願いの出【ず】っ小箱ば貰うて来て」言うて、

欲張りの爺さんな、お婆さんに話したら、

「そがんいうぎぃ、私【あたい】どんもそぎゃんしゅう。

その小【こま】―か箱ば鼠から貰おう」と言うて。

そいぎぃ、お婆さんもお爺さんも、

そこん辺【たい】いっぴゃあ歩【さり】いて、

「鼠のおらんか。鼠のおらんか」て、

子供【こどめ】ぇ、

「あの、あい達、銭ばくるっけん、鼠ば捕まえてきてくいろう。

鼠ばチョッと、

私【あたい】どま用事のあっじゃけん」ち言【ゅ】うて、探し回ったて。

そいぎ四、五日経ってから、

一匹のどぶ鼠のごたっとば、子供の捕まえて来たと。

そいぎその子供に、一文ばやって、

「こいば、そいぎ売ってくいさい」ち言【ゅ】うて、鼠ば買うてさ、

「鼠、我が家に案内してご馳走ばせろよ」て、言んさったぎぃ、

「はい。はい」ち言【ゅ】う。

やっぱいきれいか御殿に案内したそうです。

余【あんま】いご馳走もいっちょんなか。

「ここ、ご馳走はなかとねぇ」ち言【ゅ】う。

「今日は生憎【あいにく】ご馳走はお休み」ち。そいぎぃ、

「奥に取り次【ち】いでんしゃい」

「奥も皆な今日【きゅう】は寝とっさっ。ご馳走の休み」て。

「あら、『ご馳走の休み』ち言【ゅ】うともあろうかあ」

「今日は、ご馳走食べんたい」ち。

「あいば、小【こま】―か三つの願いば聞いちくるっちゅう箱ないどん

くれじぃにゃあ」と言うて、催促しんさっそうな。そいぎぃ、

「そりゃあ、どがんやろうかあ」ち言【ゅ】うて。

そいぎぃ、

「うん。箱ない、良か良か。やれやれ」て、奥の方から声んしたて。

そいぎ小【こま】ーか箱ば、

「有難【あいがと】うござんした。

こいっちょ貰【もり】ゃいが来たともん」て言うて、

欲張り爺さんは帰ったと。

そして、

「婆【ばば】、箱ば貰うて来た。

三つ願いば言うぎぃ、そいば聞いてくるってやっけん、

早速言【い】おう」て言うて、そのお爺さんは、

「米のいっぴゃあ入【ひゃ】あった、米倉の百欲しかあ」

て、こう言いんさって。

そいぎぃ、ズラーッと米のいっぱい入【い】った倉の百、

表に裏にも横にも出たて。

「あら、ほんなこっじゃったあ」

「そいぎ今【こん】度【だ】あ、何【なん】ば言おうか」

ち言【ゅ】うて、お婆さんと喧嘩が始まった。

「こん畜生【ちきしょう】、鬼婆。

お前【まり】ゃ、

角【つの】の生【へ】ぇとらんばっかいの鬼婆たあ」て、

お爺さんがちい言うたて。

そいぎぃ、お婆さんに角の二つも、ヒョローッて、ちい出たて。

「あらー、ほんな、お爺さん。あんたが言うたけん、

この角ばどぎゃんないどんしてくいござい。

もう角の生【へ】ぇて、もう外さいでん行【い】かれん。

このよん太かとの角の二つも生【は】えて」ち言【ゅ】うて、

お婆さんの恐ろしか。

「そいぎぃ、どがんしゅうか」

「そいぎもう、この角しゃあが無【の】うなっぎぃ、

何もいらん」て、泣き泣きこがん言う。

そいぎその百の倉も、バーアッと消えて、

角も引っ込んで、もとのままの人になった、

欲張りさんの三つの願いが、そんなふうじゃったて。

そいばあっかい、おしまいです。

[一八五 鼠浄土【AT四八〇】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P142)

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