嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お爺さんは何時【いつ】も山の畑にカッタンカッタン、

畑打ちぎゃ行きよんしゃったてぇ。

お婆さんな何時【いつ】ーでんお爺さんの好きな団子ばねぇ、

お昼のご飯に団子ば作って、お弁当に持たせてやいよんしゃったて。

あーったぎねぇ、

もう大抵【たいちぇ】、頭ん上さいお日さんがきたけん、

お昼ばいと思うて、団子ば開こうでしたぎねぇ、

その団子がね、コロコロコロコーロって、転うだちゅうもん。

そいぎぃ、ありゃあー、コットーンと入【い】ったけん、

「まあーいっちょ」ち言【ゅ】うて、

良かお爺さんじゃったけん、転ばきゃあてみたぎぃ、

またコロコロコローって、調子良【ゆ】う転んで、コットーン落ちっ。

ありゃあー、あすこの穴さい入いよっばいのうー、と思って、

お爺さんは我がまでねぇ、そこんに、あの、

入【ひゃ】あんしゃったてぇ。

あったぎぃ、

穴ん中のズウーッと続かっとってね、奥の方に広ーか所【とこ】んあっ、

鼠どんがゾロゾロやって、楽しゅう踊いおったちゅうもんねぇ。

ジイッとねぇ、踊いば聞きおったぎぃ、

「猫のらんと鼠の浄土。鼠の浄土は極楽浄土」ち言【ゅ】うてね、

ほんに面白うおかしゅう囃【はや】して、

もうあの可愛らしか鼠どんがいたずらもすいどん、

手拍子足拍子、面白う踊いよったて。

そいぎぃ、お爺さんなニコニコして見おんさったぎぃ、

一匹の鼠がねぇ、

「あら、お爺さん。今ん団子ば有難う」ち言【ゅ】うて来たて。

そうしてねぇ、

「お爺さん。今日【きょう】はこんなにいい物を貰ったから、

私達もお爺さんに、おみやげを差し上げます」て、言うてねぇ、

斧のきれーいか斧と、おろーいか斧と、

太かとやら小【こま】かとやら、沢山【よんにゅう】並べてね、

「このうち一つ、お爺さんの気に入りの物を持ち帰りください」て。

良【ゆ】う見おったぎぃ、ピカピカ光って、

こりゃ眩【まばい】いかごたっとは何【なん】じゃろうかあ、

と思うて、見とんしゃっぎぃ、

「これはピンドロの斧ですよう」て、その鼠が言うたてぇ。

「そいぎんとにゃ、お爺さん、これがいいでしょう」て、言うたぎぃ、

「いんにゃ。私【わし】ゃなねぇ、

年【とし】寄【お】いで力もなし穴も這い上がらんばけん、

小【こま】かとのなっだけおろいか【質ガ悪イ】とが良かあ」

て言うて、

良かお爺さんやったけん、おろーいか小ーか、あの、

貰【もろ】うて帰んしゃったて。

そして、

「ただいまあ」ち言【ゅ】うて、何時【いつ】もごと夕方帰んしゃった。

そして,今日のあったことばお婆さんに話しんしゃったて。

「恐ろしか、お前【まい】の作ってくいた、あの団子の転んでいたぎぃ、

『そのお礼に』ち言【ゅ】うて、こいば貰うて来た。

そりゃあ、鼠どんはねぇ、太かと小【こま】かと、きれいかと、

もう切るっごたっとや、沢山【ゆんにゅう】あの、斧ば持っとったよう。

そしてねぇ、恐ろしか良か塩梅【んびゃあ】のとの

手ごろんとのピカピカし眩【まば】いかごと光っとのあったあ。

そいぎぃ、

『こりゃあ、何【なん】ねぇ』て、言うて聞いたら、

『こりゃあ、金の斧』て言うた。

あったいどん、

私【わし】ゃあ、こうして握ってみよったぎぃ、

こいがいちばん手ごろで使【つき】ゃあ良かったけん、

このいちばんおろいかとの小【こま】かとば貰【もろ】うて来たあ。

こいば使ゃあ慣【な】らそうだい、と思うて、

古かったいどん、こいば貰うて来たあ」ち言【ゅ】うて、

お婆さんに話【はに】ゃあたぎぃ、お婆さんはねぇ、目の色変えてさい、

「お爺さんていう人は、あんた、欲がないねぇ。

もっと良かとば、そぎゃん持って来たない、

『いっちょ』て言わじぃ、二つも三つも、貰うてこんけん。

良かお爺さんご飯食べよんさい。

私が何処【どこ】ん辺【たい】やったあ。

私が、まあーだ残った団子のあっけん、そいば持って行たて、

鼠からいちばん良かとば貰うて来っ。

お爺さんな欲なし」

ち言【ゅ】うて、ドンドン、ドンドン行きんしゃった。

そいぎねぇ、

お爺さんは何時【いつ】もここん辺【たい】で、

働きおんしゃったねぇ。

鍬【くわ】で

畑ば打った跡のあった所【とこ】ん辺【にき】さい来たぎぃ、

小【こーま】か穴のあろうかにゃあ、

と思うて、見おったぎぃ、

ズウッと道のちかっと離れた所【とこ】に丸【まーる】か穴のあったと。

そいぎぃ、こいやろうかにゃあ、と思って、

覗きよったぎぃ、真っ暗かちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、

穴も真っ暗かった。

ジイッと暗か穴ん中【なき】ゃあおんしゃったぎねぇ、

まあーだその穴は奥さい広がったろうごたっけん、

また手探いで来【き】んしゃったぎぃ、

そいこそ鼠の浄土て、広ーか所【ところ】のあったちゅう。

そいぎぃ、そけぇジイーッとお婆さんが座っとたぎねぇ、

小【こま】ーか可愛いか鼠の

チョコチョコ、チョコチョコ、ゾロゾロ、ゾロゾロ寄って来たて。

そうして、トーンとして不思議そうにお婆さんば見よったちゅうもん。

そいで、

「あの、お前【まい】達は踊いの上手てじゃろう。

踊って見せやーい」て、お婆さんが言うたぎねぇ、

「お出【い】で,お出で」て、言うたぎもう、

またーその、倍ていわんごと沢山【よんにゅう】おるしこ寄って来て、

そうして手拍子、足拍子、

「猫がおらぬと鼠の天国。鼠の浄土は極楽天国」ち言【ゅ】うて、

そうりゃ面白うおかしゅう、もう可【か】愛【わゆ】うして、

その欲の深かお婆さんな、欲はう捨てて笑わんばらんごと、

楽しゅう踊って見せたてて。

そいぎぃ、お婆さんのまあーだ踊いよっとに、

「これこれ、鼠達。

お前【まい】達は宝物【たからもん】を持っとってじゃろう。

もう踊りゃあ、婆ちゃんが帰ってから良かけん、

その、宝物ば婆ちゃんにもくんしゃい」ち言【ゅ】うたぎぃ、

「ああ、宝物ねぇ。踊いのすまんぎぃ、宝物は出ん」

「そぎゃんことのあんもんこう。

ユックイ踊って良かけん持って来い」て、言うたぎねぇ、

ちかっと太かとの、その宝物ば、斧ば幾らでん持って来たてぇ。

そいで持って来たとば見おらした婆ちゃんな、

こりゃあ、鼠のおっぎ持って行かんばい。

足さらわるっかわから、と思うて、

「ニャアーオーン」て、お婆さんがちい言うらぎねぇ、

鼠の何時【いつ】んはじじゃい隠れたかわからんごと、

もうおらんごとなったと。

そうしてねぇ、そいばっかいじゃなし、

ゴロゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロって、

地【じ】の底から鳴っごたっ音のとしてねぇ。

土のバラバラバラって崩れて、

お婆さんなとうとう埋まって仕【し】舞【みゃ】あいんしゃったてよう。

チャンチャン。

[一八五 鼠浄土【AT四八〇】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P141)

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