嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかしねぇ。

お爺さんの山の畑ば耕しに行きよんしゃったてぇ。

そいぎねぇ、

お婆さんな弁当にさ、あの、

何時【いつ】ーでん団子ば入れてやいよんしゃったちゅうもん。

そうして、お爺さんの働きよんさっ所に何時【いつ】も

その団子ば運びよったちゅう。

そいぎぃ、

お婆さんが今日【きゅう】もねぇ、団子ば持って、そうして、

お爺さんの畑おんさっ所【とけ】ぇ行きおんさったぎねぇ、

あったぎねぇ、川ん端でさ、コロコロって、

その団子の、川の端ば渡る拍子に

ちい【接頭語的な用法】こぼれたちゅうもん。

そいぎぃ、

「ありゃあ、困ったにゃあ、と思うて、その団子ば追いかけて、

お婆さんのズウッと行きおんしゃったぎぃ、

その川の渕にお地蔵さんの建っとんしゃったてぇ。

そいぎぃ、

「あの、お地蔵さんここを通してください。

私はねぇ、団子ば折角、お爺さんに、あの、

弁当に持って行きよったぎぃ、

ここへ落として団子の転んで行く」て、言うたら、

「こいから先は鬼のおっけん、婆さん、行かんが良かよう」

て、お地蔵さんの言んさったて。

そいも言うこと聞かんで、団子に気をとられて、

お婆さんがドンドン、ドンドン行きよんしゃったてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、

じき鬼のおっ所【とけ】ぇはって行きんしゃったてぇ。

そいぎぃ、鬼から見つかって、

「婆さん、つかまえたぞう。

こりゃ婆さん、お前飯炊き婆さんにちょうど良かあ」て言うて、

鬼がもう戸ばシッカイ閉めて帰さんてじゃんもん。

そうして、来る日も来る日も、その婆さんにねぇ、あの、

ご飯ば炊かすっちゅうもん。

そうして、大きな杓子【しゃもじ】ば持って来てさ、

「婆さん、こりゃねぇ、クルッとかき混じよっぎぃ、

この杓子はご飯が倍【ばえ】出【ず】っことなっと。

そいけん、ご飯が炊き上ぐっぎぃ、こいで混ぜてくれぇ」

て、鬼が言うて、その杓子ば渡【わち】ゃあたて。

そうしてねぇ、ご飯ば腹いっぱい食べてから、鬼は、

「まあ、ひと仕事して来【こ】んばらんけん、

婆さん、夜のご飯ば頼むよう」

ち言【ゅ】うて、出て行たちゅうもん。

そいぎ婆さんな、

この杓子いっちょ持って今んうち逃げんば、逃ぐっ時のなか、

と思うて、鬼のおらんとば確かめて、

エッサラコッサラその、

自分の家【うち】さん川ずたいに逃げ帰んしゃったてぇ。

そいぎもう、お爺さんな帰って、

「婆さんな、何処【どけ】ぇ行たろうか、

三日も婆さんのおらんじゃったけん、心配やったぞう」

て言うて、言んしゃったぎぃ、

婆さんなねぇ、

「良かーとば鬼から貰うて来た」ち言【ゅ】うて、

自分がちかっとばかいご飯炊【ち】ゃあたとば、

クルクルクルって、混ぜんさっぎご飯が倍なって。

そいから先ゃねぇ、

もうお爺さんと仲良く難儀をせんで暮らしたあ、ていうことです。

そいばあっきゃ。

[一八四 地蔵浄土【AT四八〇】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P135)

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