嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

田舎の搦【からみ】にさ、

恐ーろしゅう西瓜ば沢山【よんにゅう】

作いよんしゃったちゅうもん。

そいどん

熟【うる】っちぃ分になっぎぃ、誰【だい】じゃいろう、

熟【うれ】たとから西瓜泥棒の来て、

おっ盗【と】いよったちゅう。

種【たね】もなかごと無【の】うないよったて。

そいぎぃ、

西瓜泥棒ば番しゅうで百姓さん達ゃねぇ、

もう寝ずの番ばしおんしゃったちゅうもん。

小屋建てて。

あったいどん、泥棒はいっちょん出て来【こ】んて。

そいけん、いっちょん安心されじぃ、

西瓜の熟っ時分になっぎもう、ほんに世話じゃったて。

けれども、

幾ら寝ずの番しても、やっぱいおっ盗【と】らるっちゅうもんねぇ。

「困ったにゃあ。ぎゃしこら【コンナニ】番しとっても、

誰【だい】一人【ひとい】でん

泥棒ば見た者【もん】なしにゃ困ったもんにゃあ」

ち言【ゅ】うて、

「不思議かにゃあ」

て、言いおんしゃったて。

そこの村にいちばんの豪傑者【もん】のおったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

「俺【おい】が、その泥棒ば退治してくりゅうだい。

誰【だい】でん難儀しとっとこれぇ、

村の者のために、俺が退治してくるっ」て言うて。

「番小屋に番しとったいどん幾ら番しても同じこと。

泥棒は姿も見せじおっ盗【と】ってはって行くちゅう」

ち言【ゅ】うて、皆匙【さじ】ゃ投げとったところに、

強か青年が、

「俺が退治すっ」ち言【ゅ】うて、来たちゅう。

そうして、西瓜畑の、

ジィッと叢【くさむら】にかごうどったぎぃ、

ザォーザォと、何【なん】か生臭かごたか風の吹いてきて、

ちぃった西瓜畑の葉のザォーザォ動きよったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、今のが盗みが来たとじゃろうかにゃあ。

ヒョッとすっぎぃ、泥棒が来とったじゃろうかにゃあ、て思うて、

太か棒ば持って来とったもんじゃい、

こいが曲者ばいと思うて、その棒ば振り上げて、

ペタペタペタで、めった打っ叩【くら】せんしゃったぎぃ、

ゴトッて、何【なん】じゃい手答えのして、

その泥棒はコロッと、死んでしもうたちゅう。

後【あと】はシーンて、何【なん】も聞こえんて。

そいぎねぇ、その青年は、私ゃ力は強かったいどん、

殺すつもりはなかったとこれぇ、

大事【ううごと】した。

ああ、困ったにゃあ、と思うて、

「ビックイして本家の兄さんの家【うち】さ走って行たて

相談してみゅう」ち言【ゅ】うて、

兄さんの家さい飛んで来て

兄さんに救いば求めんしゃったてぇ。

「兄さん、こぎゃんこぎゃんふうで人ば殺してしもうた」

ち言【ゅ】うて、言んしゃったぎぃ、

兄さんの言わすことにゃ、

「何【なん】でまた、お前【まり】ゃふうけとっ。

泥棒ば捕まゆっ気はなかったとたい。

全部【しっきゃ】どめ村ん者は加勢【かせぇ】受けて

殺さんで泥棒ば、捕まゆっぎ良かったのに」

て、怖【こわ】かごた顔して言んさっ。

「そいけん兄さん、『私が殺すっもいじゃなかった』

て、いうことば、言うてしぎゃあくるっぎ良か」

て、言うたけど、

とぎーゃん頼んでも兄さんはもう、うてあわじぃ【相手シナイ】、

「お前【まり】ゃあ、人殺しの犯人ばい」て。

「俺【おり】ゃ、犯人ば弟に持った覚えはなか。迷惑だ」て。

「今日【きゅう】限り弟でもなか、兄でもなか。

もうお前【まい】とは緑な切っ」て言うて、

恐ーろしゅう兄さんから叱【くる】われたて。

弟は、誰【だれ】も頼い先【ざき】ゃなかにゃあ。

俺ゃもう、死んでも良か。

兄弟の緑な切るてまで言われた、と思うて、

スゴスゴと帰よんしゃったいどん、

ほんにあの友達の所に、

あぎゃん仲【なか】良【ゆ】うしとったけん、

あすけぇいっちょ行たて、

俺が気持ちないとん話【はに】ゃあてから死のうばい、

て思うて、友達の家に行きんしゃったて。

そいぎぃ、友達ん所にシオシオとして行きんしゃったぎぃ、

友達は、

「何事【なにごと】かあったとやあ」て、

その親友は、友達の心はただごとじゃいなかばーい、

と思うて、聞きんしゃったぎぃ、

「こぎゃん。こぎゃん。こぎゃん」て、

今までの経緯【いきさつ】を話して、

「そいけん、私は殺そうで思うて、殺したとじゃなかちゅうことば、

お前【まい】が証明してさえくるっぎ良かいどん」

ち言【ゅ】うて、友達に打ち明けんしゃったぎぃ、

その友達は、

「何【なん】て言いおっかあ。

俺【おい】は、お前【まい】の友達ぞう。

お前の友達じゃっとけぇ、

お前の苦しんどっとば平気でおらるっかあ。

お前と一緒【ひとちぃ】なって殺したことに俺もなっても良か。

死罪になって殺さるっんない、

お前と一緒【いっしょ】に死のうだい」

こぎゃーんまでその言んしゃったぎぃ、

その友はその友達の手ば握って、有難く涙にくれたちゅう。

「ああ、友達ば持って良かったあ。

ぎゃん世の中【なき】ゃ良か友達のおってくれたかい」

と言うて、

ほんなこてその時ゃ嬉し泣きにその青年は泣【に】ゃあたちゅう。

そうして、その友達が言うには、

「あいどん、夜【よ】の明けんうちにさい、

その死んだ者ば、片付きゅうじゃなっかあ。

仕【し】様【ょん】なかばい」ち言【ゅ】うて、

二人【ふちゃい】どめ家【うち】に鍬【くわ】のあっけん、

それを担いで行こうと。

「鍬持って畑さい行たてみゅうい」て言うて、

二人その、行っかけたいどん、

そぎゃん大【うう】騒動して兄さん方行き、

友達の家に行きおっうち、

もう夜【よ】が白々明けかかいおったちゅう。

そん時に、

「もう、泥棒の死体を片付きゅうだーい」ち言【ゅ】うて、

二人、友達と男と来てみたぎぃ、もうビックリしたちゅう。

人間ば殺したてばあっかい、思うて、見ぎゃ来てみたぎぃ、

恐ーろしか太か鰻【うなぎ】の頭は棒で打たれた傷のあっとの、

ゴロッと死んどったちゅうもんねぇ。

「ほら、人間ば殺【これ】ぇたてばかり思うどったぎぃ、

人間じゃなかったあ」て、

二人の者【もん】は抱き合うて喜んだて。

そうして、村ん人にも、

「おどま罪人にならんじゃったいどん、

この西瓜泥棒は大鰻じゃたいどん、

種までなかごと食ったとは大鰻じゃったばーい」

ち、言いおったもんけん、

村ん者んも、その太か鰻を見ゆうで思うて、

そけぇ駆けて集まって来たちゅうもんねぇ。

そうして、ほんにその若【わっ】か者【もん】に言うには、

「ほんに、私【あたい】どんが難儀ば救うてくれて

有難うござんした。

こいから安心して西瓜ば作らるっ。

ほんに有難うござんした」ち言【ゅ】うて、

村者な恐ろしか喜びんしゃったて。

そうして、そいぎぃ、この鰻ぱじゅって【料理シテ】、

こいを蒲焼きにして、

全部【しっきゃ】あで酒ば飲もう」ち言【ゅ】うて、

宴会ば始めんさいたちゅう。

あいどん、その若【わっ】か者の兄さんなさい、

チョッと我が家へ引っ込【ご】うで、

とうとう顔も出しんさらんやったちゅう。

そいばあっきゃ。

[一八二 兄弟の仲直り【AT八九三、cf.AT一四六二】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話P133)

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