嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

東の長者さんちゅうて、

恐ーろしかもう、昔から大きな家【うち】があってねぇ、

そこには若【わっ】か下男が一人【ひとい】おったちゅう。

そいで、この男は去年からねぇ、

長者さんの家【うち】に雇われて来とったてぇ。

そいぎぃ、あいどん

その小【こま】ーか下男が、働くこと働くこと、

陰日向なく働ゃあた上、ほんに利口かてやったてもんねぇ。

そいぎぃ、その長者さんは特別信用してねぇ、

今度【こんだ】あ、西の長者さんの家【うち】に

使いにやんしゃったてぇ。

「小【こま】ーか、あの、下男がいちばん良【よ】かあ」

ち言【ゅ】うて、

気に入って西の長者さん方【がち】ゃやんしゃったて。

そいぎねぇ、その下男がさ、村の池ん辺【にき】ば通ったぎぃ、

「もし、もし」て、誰【だい】じゃい言うてじゃんもん。

グルッと振り返って見たぎぃ、誰【だーい】もおらんて。

そいからまた、一時【いっとき】したぎぃ、

「もし、もし」て言う、声のすって。ヒョロッと見てみたぎねぇ、

若【わっ】か女子【おなご】のさ、

木の葉ばさ、七、八枚紙に包みおってじゃんもん。

そうしてねぇ、

「こいば西の長者さん方【がち】ゃあ、

あなた行きよんさっでしょう。

そいぎぃ、西の長者さん方の側で拍子木ば打ってください。

西の長者さん方ゃ拍子木ば置いちぇあっけん。

そいぎぃ、誰【だい】じゃい出て来ますよ。

そいぎぃ、こいばやってください」ち言【ゅ】うて、

木の葉ば七、八枚紙に包んで託【ことづ】けたちゅうもん。

そいぎぃ、その下男、おかしかにゃあ、と思うとったいどん、

託かい物じゃったもんと思うて、

西の長者さん方の家に行たて真っ先、

池の所【とけ】ぇ行たぎぃ、拍子木はいっぴゃあ、

ほんなそけぇ置【え】ぇちぇやったて。

そいぎぃ、拍子木ば打って鳴らしたぎぃ、女の出て来たて。

そうして、

「何【なん】用ですかあ」て言うて、出て来たけん、

預かってきた物ば、

「こいばどうぞ」ち言【ゅ】うて、やったぎぃ、

「まあ、嬉しかのう」ち言【ゅ】うて、笑顔ば見せてさ、

そうして、

その木の葉ば一枚ずつもう、

念入りに触【さわ】ったい、摩【さす】ったいして、

一枚ずつ表ば見たい、裏ば見たいして

念入りに見よったちゅう。

そうして言うことにゃ、

「この返事ばやいますから、チョロッとお待ちください」

て言うて、ヒョッとおらんごとなったて。

そいぎ今度はさ、十二枚も木の葉ば紙に包んでねぇ、

「お頼み申します」て、

「東へ帰ったら、これをまた会う所に行たて、お渡しください」

て、言んしゃいどん、

その男は、

「こっちに用事のあって、何時【いつ】帰るかわかりませんよう」

て、言うたぎねぇ、

「あんたさんが帰らるっ時で結構ですよう。

お頼みいたします」て、言うたぎぃ、かき消えたて。

いろいろ用事が西の長者さんから頼まれたいどん、

三日目にはねぇ、東に帰っごとなんしゃったて。

そうして、東の長者さんの家【うち】に帰ってみたぎねぇ、

池ん側にさ、あの、

「もし、もし」ち言【ゅ】う、女子【おなご】の立っとったちゅう。

そいぎぃ、

木の葉の包んだ十二枚【みゃ】あ包んだ紙包みば

渡しんしゃったぎね、

「これは心ばかりのお礼の品でございます」

ち言【ゅ】うてねぇ、やったちゅう。

そりゃ何【なん】かちゅうぎぃ、

小【こま】ーか、そいこそ手の上に載【の】すっごと

臼ばくいたちゅうもん。

そうして、その女が言うにはねぇ、

「こいば、一日に米ば一粒ずつ入れてさ、

クルッと回すぎ小判が出てきますから。ほんのお礼の印です」

て言うて、小ーか臼ばくいたちゅう。

そいぎねぇ、その長者さんの家【うち】でその下男は、

「実は西の長者さん方【がち】ゃ行く時、

こなたのそこの近くの池の女子【おなご】から頼まれて、

これこれこぎゃんやったあ」

て言うて、話しんしゃったちゅう。

そいぎぃ、

「お前【まり】ゃ、良か物ば貰【もろ】うたない」

て、言んしゃったいどん、

「お宅の、私、雇われ者【もん】じゃっけん、

お宅で使【つこ】うてください」

ち言【ゅ】うて、長者さんに貰った小ーまか石臼ばやんさったて。

「よかない、貰うてぇ」て、言うてから、

長者さんが貰うてねぇ。

長者さんも沢山【よんにゅう】持っとって欲深じゃったけんねぇ、

もうザラザラやって入れて、回しんしゃったちゅう。

そいぎぃ、

それっきり小判も何もいっちょ出んごといちなったちゅう。

そいばあっかい。

[一六七 塩吹臼【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P127)

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