嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

大きなお家【うち】に、

あの、猫と犬と飼【こ】うとんしゃったてぇ。

そうしてもう、昔はとても猫と犬は仲良しだったそうですもんねぇ。

もう、仲良く遊びに行く時も、ご飯を食べる時も、

一緒に食べ食べさせてもりゃあよったて。

とても仲良かったて。

そいぎぃ、ある日のことねぇ、

「お前達ゃ、ぎゃんして可愛がられて飼われとんもんじゃい、

いっちょ何【ない】なっとん良かことしてみれ」て、言うたら、

「どぎゃんことすっぎ良かろうかあ」て、聞いたところが、

「あの奈良の太―かお寺に

金の刀【たち】のあっとの欲しかさい」と、主人が言ったら、

「そいぎぃ、そいば盗【と】って来【く】うかあ」と。

「うん。そいぎぃ、そいば盗って来てくいたもんば、

いちばん可愛がろうだーい」て、こう言んしゃったけん、犬も猫も、

「それはお安いことです」

「そいどん、大抵【たいちぇ】遠うかばーい」

「あーい。四つ足ば歩【あゆ】うで行くけん良かあ」て言うて、

承知して、あの、犬と猫は、それから出かけましたと。

そうして、ズウーッと行きよったぎねぇ、

奈良までていうぎ途中で太―か川の、

大井川ちゅうとのあったてぇ。

恐ろしか太かちゅうもんねぇ。

人間でん川の水の少なか時ゃ担がれて、

あの、「川越え」ち言【ゅ】うて、渡いおんしゃったごと

川の太かちゅう。

そいぎぃ、

そけぇ来たちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

「どうしゅうかあ。渡りゃえんごたっ。

ぎゃん遠か所まで来てから、

諦【あきら】むっとは余【あんま】い悔しかねぇ」て、

二人ウロチョロして考えよったら、

「良か。あの、犬かきで泳いで行くけん、

俺【おい】が背中に、ニャー子は乗れ」て言うて、

犬の背中に猫はおぶさってね、犬はドンドンそこを渡ったて。

そうして、宿屋に泊まって、

「さあーて、どがんしゅうかあ。

何処【どけ】ぇなぇーてあっこっちゃいわからんにゃあ」

て言うて、泊まって話しおったぎぃ、

「まず、その大きかお寺ちゅうとば、あの、

拝【おご】うでないとん見じぃにゃあわかんみゃあ」

て、言うたことで、その奈良までも、犬と猫は行きました。

奈良に着いて、

そいぎぃ、恐【おっそ】ろしか太かお寺さんちゅうもんねぇ。

そいぎ犬は、

「お前【まい】さんな、ほら、鼻利きやろうがあ。

鼻ば利かせて、そうしてあの、嗅いでみてくれ」

て。

「何処【どけ】ぇ、なやあてあろうどん、

金の刀のありかわかぞうてくれ【鼻でカイデクレ】。

鼻利きじゃっんもん」て、犬に猫が言うたて。

「うん。鼻利き、そりゃ安かこと」ち言【ゅ】うて、

クンクン、クンクンかぞみよったら、

「塔の高【たっ】か上に上げちぇあっ」

そいぎ犬は、

「私【わし】は、あぎゃん所までは登いえんどん、

猫さんはどぎゃん高【たっ】か所【とこ】まってん、

お前【まい】さんな行きゆっとやろう」

「うーん。行きゆっ」て。

「そいぎぃ、お前さん持って来てくいやい」

あいどん、来っ時あの、背中に背負【おんぶ】して来たけん、

その刀ゃ私んとばいねぇて、こう心の中で犬は思いよったてぇ。

そうして、夜になっとば待って、

夜になったぎぃ、猫がゴソゴソ、ゴソゴソ梁【はい】の上、

塔の上ちゅうて、登って行たて。

そいぎぃ、わけなくその、

「犬が真ん中ん辺【たい】」て、言う所【とこ】ば見おったぎぃ、

刀が見【め】ぇかかったて。

そいぎぃ、

おろちーいてその刀ばくわえてから、

ゴソゴソ、ゴソゴソ下【した】さい降りて来た。

「もう、用事【ようじ】ゃあ、あの、

この刀ば取っごといっちょじゃっけん、帰ろうやーい」

言うて、刀ばくわえて、刀は重【おふ】かけん、あの、犬が、

「あんたは小【こま】か体やっけん、

私【わし】がくわえよう」言うて。

「そうねぇ、お前【まい】さんが体が、図体の太かけん、

お前さんに頼むばい」て、

二人【ふちゃい】で、ドンドン、ドンドン、ドンドン

走って帰って来よったて。

ところがまた、その川にさしかかったあ。そいぎぃ、

「お前【まい】さん、

刀もくわえて、そうしてあの、背負【おんぶ】して

行かんばらんない、

苦労なこっじゃいどん頼みまーす」ち言【ゅ】うて。

そうして、あの、ドンドン、ドンドン今度は

刀は猫がくわえて遠うから持って来たいどん、

犬は自分が川も渡ったけん、猫も行かれた。

自分がくわえて持って来よっけん、

自分がいちばん可愛がらるっばい、と思うて、帰って来よったて。

そいぎぃ、太か橋ばこう渡いよっさみゃあ、

「あの、くわえとった口ば開くっぎ落ちっばーい」て、

背中の猫が言うたて。

そいぎぃ、

「わかっちょる。わかっちょる」て、口ばちい開けたて。

その間【やーだ】に、

ジャボーンて、その川に刀が入【ひゃ】あたて。

「ああーりゃ」て、言うたぎぃ、

「お前【まい】さんが言いしゃあぎゃせんぎんとにゃ、

口ば開けんぎ落ちんはずやったとけぇ。

そいで、話ゃしても口は開けじよかったとこれぇ」て、猫が言う。

「馬鹿たれ。お前が話しかけたけん、

口ばちい開けたあ」て言うて、そこでまた喧嘩の始まったて。

「あいどん、ぎゃんして喧嘩しおりょういか、

あの刀ば持って行くとやっけん、どがんすっなあ。

川底は深かごたっとけぇ、どがんしてそいば取んなあ」

て、言うことになったて。

そいぎぃ、見てみたら川底が深いて。

ところが、ジョロジョロジョロ、ジョロジョロジョロ、

ジョロジョロジョロって、

蟹さんがそこん辺【たい】ゴソゴソしよったて。

そいぎ猫が、

「あっ、蟹のおっばい。

あいば、あの蟹に、

『いっちょくわえらるっ所まで上げてくいろ』て、頼もうかあ」

「うん。そいが良かろう。

あいどん、蟹ゃ小【こーま】かけん持って来【き】ゆんみゃあ」て。

でも言ってみにゃわからんと言うことで、

「これこれ。蟹さんよ、蟹さんよ。

ほんにすまんことないどん、

金の刀ばここの川底にちい落【お】てぇたばってん、

お前さんがここまで持って来てくるっぎ助かるがなあ」て言うて、

猫が頼んだら、

「はあ、よございますよう」て、言うたて。

そいで、

蟹さん、こう言ったけど刀は太うして、

くわいついてみたぎ重【おふ】たか。

「私のはさみは折るっごたあ。どがんすっかあ」

「ありゃあ、蟹さんもとても持って来【き】いえんばーい。

石よいた重たかとこれぇ」

て言うて、案じよったところ、

蟹さんが何【なん】じゃい、

「ゴソゴソゴソゴソ、マサマサマサ」て、言うたぎぃ、

沢山【よんにゅう】蟹の友達の集まって来たて。

そうして、皆が力を合わせ、

「エンヤラサコラサ、エンヤラサコラサ」て言うて、

とうとう岸までその刀ばちい上げてくいたて。

「有難いこっじゃったあ。

ほんに蟹さんのお陰でこの宝物ば水から上ぐっことのできた。

ほんに有難うございました」て言うて、

蟹さんにお礼ば言うて、また帰い道になったて。

そいぎぃ、上がったところが、

「こりゃ、お前【まい】さんにまた食わすっぎぃ、

また口ば開くっぎ川にちい落とすけん、

私【わし】くわえて行く」ち、猫の言うて、

カプーッて、あん、猫がくわえてもう、

自分の家【うち】まで近かったもんじゃっけん、

一目散に走ったと。

「こりゃあ、こん畜生【ちきしょう】、待て。

俺【おい】がここまで運うできたぞう」て。

「こら、待て」て言うて、後を犬が追っかけたけども、

もう猫の走り方が速かった。

そうしてもう、自分の家に着【とじ】いたぎぃ、

ピョンと、お縁さい上がって、

そうして、あの、檀那さんの前に行たて。

そいぎぃ、犬もその後から上がろうでしたぎぃ、

檀那さんが叱【くる】うたて。

「そがん素足で上がっことなん。

犬な、お前は上がっことなん」て言うて、

酷う叱【くる】われて、

「ぎゃーん、宝物は私【わし】も持って来たっじゃっとこれぇ、

二人で行たとこれぇ」て、犬は言うた。

そいぎぃ、檀那さんは檀那さんで、

「ああ、ほんなこて、

この金の刀ばお前【まい】が持って来【き】えたか」

ち言【ゅ】うて、膝ん上に乗せて、

「宝猫、宝猫」ち言【ゅ】うて、撫でおんさっ。

そいぎぃ、犬が涎【よだれ】たらして、

上がろうごとしてたまらんでそこにおったぎぃ、

「お前【まり】ゃ、上は上がっことなん。

そこで、あの、門口の番せろ」て言うて、檀那さんの叱んさった。

「ぎゃん、まの悪かことはなか。

私【わし】が持って来たとこれぇ」て、言うけれど、

もう、犬ば見しゃがすっぎぃ、

「あの、門番しとれぇ。

戸口の番しとれぇ。上がっちゃいかん」て、叱られて、

「もう、この野郎【わろう】」ち言【ゅ】うて、

敵んごと猫ば見たら追いかけ回すと。

そいから、仲ん良かったけど仲の悪い猫と犬になったて。

 そいばあっきゃ。

[一六五 犬と猫と指輪【AT五六〇】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話P123)

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