嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかしねぇ。
おカメさんちゅうとの豆腐屋さんしょんしゃったとよう。
恐ーろしか肥えてねぇ、横が、顔どま広かごとしとんしゃったあ。
そいで、お豆腐屋さんじゃったいどんねぇ。
そけぇは猫ば飼うとんしゃったとう。
そうしてねぇ、あの、猫も一匹じゃ徒然なかろうでばっかい、
思【おめ】ぇおんしゃったあ。
そいぎぃ、おカメさんはねぇ、
大豆を作っとんしゃったもん、畑に。
そいぎぃ、天気の良かもんねぇ、と思うて、
大豆畑ば良【ゆ】うできおろうかにゃあ、と思うて、
見ぎゃ行きんしゃったぎぃ、
恐ろしゅう栄えて、そうして天気の良か日じゃたけん、
小【こま】ーか目の真ん丸か蛇のさい、
ヒョロヒョロって、出て来たちゅうもん。
あらー、可愛いさあ、と思うて、
「これこれ」て、言んしゃったぎぃ、
ヒョロヒョロってね、おカメさんの側さい来たちゅうもんねぇ。
そいぎねぇ、
あらー、こりゃあ、もの言わんし、おとなしゅうはあるし、
そぎゃん何【なん】でんは食べんじゃろうけん、
家の猫の友達に連れて行こうかにゃあ、と思うて、
手のひらに乗せて帰りかけんさったぎぃ、
手のひらに乗っとちゅうもん、蛇の。
そいぎぃ、その蛇を拾うて行たて、ニャンコちゃんに、
「ほら、お友達連れて来たよう」ち言【ゅ】うて、
猫にやんしゃったてぇ。
そいぎねぇ、猫はもう、玉取ったいないたいして、
そいから先ゃあ、蛇と遊びよったちゅうもん。
ところが、おカメさん方は豆腐のねぇ、
他所【よそ】んとよいか太【ふと】うして硬うして
美味【おい】しかもんじゃい、
そこん辺【たい】近所から買【き】ゃぎゃ来【き】んさっけん、
もう恐ーろしか豆腐の売れて売れて。
そうして、お金も沢山【よんにゅう】あったちゅう。
そいぎねぇ、
おカメさんの親戚から息子さんば一人【ひとい】、
「おカメさん、あんたが後継ぎに息子ばやろうかあ」て、
言うてじゃったて。
「そうねぇ、そいぎぃ、あんた方の息子さんじゃんもん、
親戚つながり貰おうか」ち言【ゅ】うて、
そのおカメしゃん方おんしゃったちゅうもんねぇ。
そいどん、その息子はいっちょん加勢もせんし、
ノラークラして遊【あす】うで怠けん坊じゃったて。
そいぎねぇ、その蛇ば拾うて来てから、
もうじき三年ぐりゃあ経ったちゅうもんねぇ。
そいぎぃ、その蛇が恐ろしか太うなったてぇ。
そいぎねぇ、もう、
豆腐ば買【き】ゃあぎゃ来【く】ん者【もん】がねぇ、
「あの蛇が、チョロチョロって舌出すけん
よそん悪かあ【気味悪イネ】。
ヌラッて来て、よそん悪かあ」ち言【ゅ】うたいして、
一人減ぇ二人減ぇ。
「あの蛇しゃあがおらんぎ良かいどん、
よそん悪かけん、豆腐買ゃぎゃ行こうごとなかあ」
ち言【ゅ】うて、
お豆腐がそいからいっちょん売れんごとなったて。
そいぎぃ、おカメさんはねぇ、
「そいでもう、蛇が太うなったけん、誰【だい】でん
よそん悪しゃ恐ろしっやしんさったとも無理なかよう」て言うて、
その蛇ば連れてねぇ、ある日、遠か所【とこ】の丘まで行たて、
「蛇よ。お前ねぇ、ほんにおとなしゅうして良か子ないどん、
誰【だい】でん恐ろしゅうしんさっけん、
お前【まい】、仕方なか、
もう他所さい行たてくれぇ」て言うて、
人間にもの言うごと言んさったぎぃ、
蛇は良【ゆ】うわかって、どうろ承知したごたったふうじゃったて。
そうしてねぇ、口からさい、小【こま】ーか箱ば出【じ】ゃあて、
「お婆ちゃん、こいばねぇ、あなたに形見にやります」
ち言【ゅ】うて、それをくいたちゅうもん。
そして、
「こりゃあねぇ、宝物じゃっけんね、
ほんにこの箱ばちかっと開けてねぇ、
何【なん】じゃい欲しか物【もん】ば言うたら、
何でん願いが適【かな】うとよう。ほんに良かとよう。
宝の箱やっけん大事にしてください」
て言うて、
そうしてスルスルスルって、草藪【やぼ】に隠れてしもうたてぇ。
そいぎぃ、おカメさんはねぇ、
その箱ば大事に抱えて帰って。
そうして、あのニャンコに、
「この箱は蛇から貰【もろ】うた」
ちて、もの言うて話して、
「神さん棚に上げとくねぇ」て言うて、
神棚に高【たっ】か所【とこれ】ぇ上げときんしゃったて。
そうして翌日【あくるひ】ねぇ、お米もなかったけん、
箱ば取い出【じ】ゃあて、
「お米ば欲しいねぇ」て、言うたぎぃ、
お米のそこん中からザクザクザクって、出てくってじゃもん。
そがんしてねぇ、
そいぎぃ、お金のちいっと足らんごとあんにゃあ、と思う時ゃ、
「小判が欲しかねぇ」て、言うぎぃ、
小判がまた、チャリンチャリン、チャリンチャリンて、
出【ず】って。
そうして、お金貯【た】めよったぎぃ、恐ろしか、
家もねぇ、きれーいに作いでかすごと
立派な金持ちさんになんさったてよう。
そいぎねぇ、
養子に来たそんぽ息子【ぐうたら息子】のおったとのねぇ、
何時【いつ】んはじゃじゃい【何時ノ間ニカ】、
こりゃ、おカメさんのあの箱、
小【こま】ーか箱のお陰ぎゃん分限者になんしゃったけん、
俺【おい】もあの箱ば盗うで行たて、
我が一人【ひとい】暮らそうと思うてねぇ、
ぎゃん婆【ばば】とおんもんかあ、と思うて、
その箱ば神さん棚から盗んで。
そうして、その家から遠か所さいはって行たちゅう。
そいぎぃ、そいから先ゃ、おカメさんもその猫ちゃんと、
チョッとションボイして、
幾ら探【さぎ】ゃあてもその箱のなかちゅうもんねぇ。
そいぎぃ、
困ったにゃあて、おカメさんな思案嘆きしておんしゃったぎぃ、
ニャンコが、
「お婆ちゃん。そいぎ私が、その箱ば見つけぎゃ行たて来【く】っ」
て、言うたて。
「お前【まい】がやあ」て。
「うーん。私、ごっといぎゃんして遊【あす】うどっもん。
そぎゃんとないどん持って来【こ】んばあ。
そぎゃんとないどん役に立たんばあ。
私【あたい】が探して来っ」て、言うたて。
そいぎぃ、
「ヒョッとすっぎぃ、あの息子が持ってはって行ったかわからん」
て、おカメさんの言んしゃったぎぃ、
「そぎゃん思うとったあ」て、猫も言うたて。
そうして、猫がピャンピャン、ピャンャピャン
毎日毎日、走って走って走りまくって、そのおカメさん方から、
ズウッとその、息子のどぎゃん所【とけ】ぇおいろう、
と思うて、探して行たちゅうもんねぇ、
そいぎぃ、二日目にねぇ、
向こん方の高【たー】か丘ん上に新しか家の建っとったて。
あらー、ぎゃんきれーいか家【うち】の
ここん辺【たり】珍しかよう。
あの家ばいっちょ見物して来【く】うかにゃあ、と思うて、
その猫が立ち寄ってみたちゅうもんねぇ。その新しか家に。
そいぎその、
しょて【以前】のねぇ、
おカメさん方【だち】ゃ養子に来とった息子が、
チャーンとその座敷におったちゅう。
そいぎぃ、
あらー、やっぱいこけぇおって、
あの箱のお陰、じき家どんあぎゃん作ったとばいのう、
と思うて。
そいぎぃ、
あの箱は何処【どけ】ぇ置【え】ぇとろかにゃあ、と思うて、
こう探しおったら、
床間にきれいな袋に入れて、何【なん】か飾ってあったて。
そいぎぃ、こりゃ何【なん】やろうかにゃあ、
と思うとったら、
あの小【こま】ーか箱のヒョロッと出たちゅうもん。
そいぎぃ、
猫がおろちいてそれぇかぶいちいて、
トット、トット、そっから逃げて来【き】たてじゃもんねぇ。
そいぎもう、
ズウッと急いでピャンピャンピャン走って来【き】おったぎぃ、
川のあって橋のかかっとったてぇ。
そいぎぃ、
橋ん所ばおずおずう【用心用心シナガラ】、こう渡って
ヒョッと見たぎぃ、
そけぇ魚のおよおよとして【一所ニトドマッテ】
浅か所【とけ】ぇ泳ぎおったちゅうもんねぇ。
そいぎぃ、
猫じゃもんじゃっけん、その魚ば食べとうしてたまらじぃ、
そっからヒョーッて、水ん中【なき】ゃ飛び込うでから、
「ああ、ガオー」て、ち言【ゅ】うたぎぃ、
小ーか箱がポトッち、水の中ゃあかっかえたてぇ。
ありゃ、ほんなここん辺【たり】、
大事な箱ばかっかやあたいどん【箱ヲ落トシタガ】、と思うて、
前足でこうかすってみっどん、なかちゅうもんねぇ。
そうして、その魚はピチピチピチして、
上ん方さい泳いで行くてぇ。
そいぎぃ、
大抵ウロチョロして、もう箱ば探【さぎ】ゃあて、
そこん辺【たい】おったいどん、
ああ、魚ないどん、ありゃ太かもん、
あいないとん咥【くわ】えて、おカメ婆ちゃんに持って行こう、
と思うて、ガフと、かぶいちいて、
その魚ば一匹咥えて、
自分の家のおカメさんの住もうとっ家さい帰って来たて。
そうして、おカメさんに、ボトーッて、魚ば置いて、
「あの箱はなかったいどん、魚ば捕って来【き】たあ」
ち言【ゅ】うた。
「こいが、みやげぇ」ち言【ゅ】うて、やったぎぃ、
「そうねぇ。よしよし」ち言【ゅ】うて、
ほんに良かお婆ちゃんじゃったもんじゃい、
「良か、良か。よしよし」ち言【ゅ】うて、おんしゃったて。
そうして、その晩ねぇ、
「そいぎぃ、この臓物【はらわた】ないどん出して煮て、
この魚でご飯どん食びゅう。
そいぎぃ、お前【まい】も骨ない食べて良かもん」て言うて、
臓物ば出そうで思うて、包丁ばシリーって、当てんさいたぎぃ、
カチッて、音んして、
その魚のお腹【なか】から、
その小【こま】ーか箱のヒョロッと出てきたてじゃんもんねぇ。
「良かったねぇ」
おカメさんも、
「良かったのう。
やっぱいあの、猫ちゃん、お前が持って来たこの魚が飲み込んだとばい。
ほんにこの小箱のきたけん良かった。
今度、お盗【と】られんごと大事になやあとかんばあ」
と言うて、
それから先は宝物ば大事にお婆ちゃんはなわすようになりました。
そいばあっきゃ。
[一六五 犬と猫の指輪【AT五六〇】]
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P121)