嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

恐ろしか太ーか川の両岸にさ、

こっちに一軒、そして西の方に一軒家のあったと。

そして、

西の方の家にもねぇ、爺さんと婆さんと住んどったあ。

東の方の家にも爺さんと婆さんとが仲良く暮らしおったちゅう。

あいどん、

どっちの家もさ、とても貧乏じゃったて。

そいで、東の家ではさ、猫ば一匹飼うとったてじゃっもんねぇ。

そうして、

その猫にもろくに食べさせえんごと貧乏ばしとしゃいたちゅう。

そんなある年の晩にさ、

東の家の爺さんが夢ば見んしゃったて。

そいは、あの川からきれいか乙姫さんの出て来て、

「これこれ、爺さん。

あんたは大変正直者【もん】で、真っ当に働けるのに

こぎゃん貧乏じゃ気の毒なあ。

ほんなこと不憫に私ゃ思うけん、一文銭ば授けるぞ。

天井裏に吊り下げて、この一文銭を祀るといい」

て言う、こがん夢ばその東の爺さんは見んしゃったちゅう。

そいぎぃ、朝起きてみたぎぃ、

ほんなこて爺さんの枕元に一文銭のあったてぇ。

そいぎぃ、婆さんにねぇ、

「夕べは、ぎゃん夢ば見たあ。

乙姫さんの、『一文銭ばやっけん、天井裏に吊り下げとけぇ』て。

『お前達ゃ正直かとこれぇ、ほんに気の毒じゃあ』

ち言うて、言んさいたてよ」て。

「そいぎぃ、そいば信じて早速、

天井裏にこの一文銭ば吊り下げてお祀りしゅうかあ」

て言うて、そのお婆さんと話し合うて、早速そぎゃんしんさいたちゅう。

あったぎねぇ、ほんなこて

だんだんくりやあ【ヤリクリ】の良【ゆ】うなってきたてよう。

そうして、仕【し】舞【まり】ゃあ銭【ぜん】の溜まってさ、

分限者にその東の爺さんはならしたて。

そしてねぇ、秋祭いのやってきたてやもん。

そいぎぃ、秋祭いに爺さんも婆さんもお参りしんしゃったぎぃ、

西の婆さんと東の婆さんは、出っかしんしゃったて。

そん時、東の婆さんは自慢しんしゃったてじゃっもん。

「家【うち】ゃ爺さんのねぇ、夢見んしゃってさ、

あの、乙姫さんから一文銭ば貰って、

『こいば天井裏に吊るして祀っぎぃ、くいやあのようなっ』

ちゅう、夢ば見んしゃったけん、

そぎゃんしたぎぃ、ぎゃんほんに良【ゆ】うなったばーい」

ち言【ゅ】うて、西ん婆ちゃんに話しんさいたてぇ。

そいば聞いて西ん婆ちゃんは、

我が家【え】の爺さんにじき帰って話したぎぃ、

その西の爺さんな欲の深かったてじゃっもんねぇ。

「そいないば、

その一文銭ば一時【いっとき】ばっかい

家【うち】も貸【き】ゃあてもらおうやあ」て、

思【おめ】ぇたって、じき東の家さい行たてぇ、

「その一文銭ば貸してくんさーい」ち言【ゅ】うて、

言んしゃったぎぃ、

東ん爺さんな良かばっかいじゃったもんじゃい、

「一時ばっかいない、良か良か」ち言【ゅ】うて、

気持ち良【ゆ】う貸ゃあてくんさったて。

あったぎぃ、

そいば貸ゃあた途端に

だんだん、だんだん貧乏【びんびゅう】し始めて、

米はもうあとがなか、炊くたなかごというごたっ貧乏し始めたて。

そうして、もう米買う銭もなかごとちいなったもんじゃい、

「あの一文銭ば返してもらおうやあ」て、言うことになって、

西の家さい行たて、

「もう、良かろうだーい。

ちゃあが長【なご】う貸【き】ゃあたもん。もう返てくんさい」

ち言【ゅ】うて、頼みんさったいどん、

西の爺さんな欲の深かったもんじゃい、

「折角貸ゃあてくいたもん。

もう一時【いっとき】、ついでじゃっんもん」

て言うて、なかなか返してくれん。

東の爺さんな家さい帰って、

「返してもりゃあたかいどん、困ったにゃあ」ち言【ゅ】うて、

考えよった。

あったぎぃ、膝に猫のやって来たて。

そいぎぃ、猫のやって来たもんじゃい、猫に、

「お前【まり】ゃ、一文銭ば取いぎゃ行きえんかあ」て、

東ん爺さんが言うたて。

「西の爺さんの家に行たて、

『返してくれ』て言うても、『待っとけぇ。待っとけぇ』て、

返さんけん、お前【まい】、取い返しぎゃ行きえんかあ」

て、猫に言うたぎぃ、

そいぎ

猫の、

「どんなことしてでも行かんば、

ぎゃん長【なご】う可愛がってもろうて、恩返しばせんばあ」

て、言うたちゅう。

そいぎぃ、

「ニャン、ニャン」ち言【ゅ】うて、猫の言うて、

そうして猫は、早速川ん渕来たいどん、川、渡いえんにゃあ、

と思うた時、犬【いん】の水飲みぎゃ来たちゅうもんねぇ。

そいぎ犬に、

「あんたあ、俺【おい】ば背中に乗せてくいやい。

お前【まい】さんな犬かきでこの川ば渡いゆうがあ」て、言うたぎぃ、

「良し、良し」ち言【ゅ】うたもんじゃい、

猫は犬の背中に乗って、

「わけない。わけない」て言うて、川ば渡って、

西の家のうちに行って、

猫は天井裏の一文銭ば取ろうでしよったぎぃ、

そけぇ鼠のチョロチョロチョロって、出て来たてゃっもん。

そいぎ猫は、そくとその鼠ば押えて、

「今日【きゅう】は、お前【まい】さんばいち食べんばい」て。「

その代わり、俺【おい】が言うことば良【ゆ】う聞いてくれ」て。

「この家の天井裏に一文銭のブラ下がっところが、

あいば落としてしゃあがくるっぎよかあ」て言うて、鼠に頼んだぎね、

鼠が、

「良し、良し。そんくりゃあのことないば朝飯前」て言うて、

承知して、

天井裏さい鼠はチョロチョロチョローって行たて噛み切って、

一文銭ばポトーンて、落としてくいたと。

そいぎぃ、猫はまた、そいば咥えて、

そうして、犬の背中に乗って川ば渡って、帰って来て、

爺さん婆さんにその一文銭ば無事に渡したちゅう。

そいぎぃ、

「猫は宝猫、宝猫」て言うて、あの、可愛がってもろうたいどん、

犬は表【おもて】で聞いて、歯痒いかったて。

俺が、猫ば渡【わち】ゃあたけん、猫は来【き】いえたとけぇ、

と思うて、腹に据【す】えかねて、猫さえ見っぎぃ、

追っこくっごとなったちゅう。

そいばあっきゃ。

[一六五 犬と猫の指輪【AT五六〇】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P120)

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