嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

とても料理の上手なおっ母【か】さんがおったちゅうもんねぇ。

あいどん、その亭主ちゅうぎもう、

反対【はんたり】恐ろしか名ふれた【名ノ知レタ】けちん坊じゃったて。

そいけん、美味【おい】しか料理ばおっ母さんの作いゆっとこれさ、

いっちょん作らせんちゅうもん。

あいどん、けちん坊亭主が、

ようようして他所【よそ】さい出て行たて、今日は留守じゃったてぇ。

そいぎぃ、留守を幸いにさ、おっ母さんは、

今日は美味【おい】しかぼた餅ば作ろうだーい、と思うて、

作いよったぎぃ、念入れて作いよったぎぃ、

美味【うま】そうなぼた餅のできたてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、でき上ったあ。やれやれ、いっちょ食べてみゅうかあ、

てしおったぎさ、じき亭主が帰って来たちゅう。

そうして、

その牡【ぼ】丹【た】餅【もち】ばおろちいて【急イデ】ねぇ、

お膝ん中にお母さんな隠してしもうたちゅうもんねぇ。

そうして、知らん振いしとったてねぇ。

そいぎねぇ、亭主はねぇ、

チャアーンと、我が嬶【かか】さんのしおったとば知っとったて。

知らん振いして、

「私【わし】ゃなあ、鼻利ちゅうけん、

じき、チャーンと知っとっぼう。

牡丹餅の入【はい】っとっう、

膝ばクンクンかいでみゅうかあ」て、わざとんごと言うたてぇ。

そうして、お膝からおはぎ【牡丹餅】ば出【じ】ゃあて。

もう、美味【うま】かそのおはぎば食べたてじゃんもんねぇ。

「こりゃ美味か。どうして」ち言【ゅ】うて、食べたて。

そいから先ゃ、おはぎでん鼻で嗅【か】きつくっていう、

そこん辺【たい】いっぴゃあ話が広まったてぇ。

そうしたところにねぇ、恐ろしか御大家のねぇ、

大きか家【うち】に宝にしとった刀の盗まれたて。

こういう事件が始まったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

その鼻利き名人の噂がそこん辺【たい】あの、広がっとったもんで、

じきその大家から使いの来て、

「どうか、家【うち】の宝のあり所ば書き出【じ】ゃあてください」

ち言【ゅ】うて、頼みに来たて。

そいぎぃ、

そのけち男は困ったにゃあ、逃げ出そうごたっにゃあ。

ほんなことは、そがんまで鼻利きじゃあなかとこれぇ、

と思うとったけれども、

余【あんま】い有名にいち【接頭語的な用法】なったもんじゃっけん、

人がワイワイ決めてしまうもんじゃ、

そんないと度胸ば決めて行くことにしたちゅう。

そいぎぃ、大家に着いたぎもう、

下女どんがじき足ば洗うとの、盥【たらい】ば持って来て、

足ば洗【ある】うてくいたてやんもんねぇ。

そいぎぃ、

その下女が何【なん】じゃい言いたかろうごとしとって。

そいぎぃ、こりゃ、何【なん】じゃいもの言うごとしとんにゃあ、

と思うたもんで、

「何じゃい、話してみぃ」て、ジイッと言うたぎぃ、

その下女が、ジイッと、コッソイと、

「あの刀は台所のお釜ん中【なき】ゃああっとこれぇ」て、

ソウッと教えたて。

そいぎその、知らん振いして、その鼻利き男はねぇ、

あの、お座敷さい通されて、鼻をクンクンクンて、

かく真似をしおったて。

隅から隅まで歩いて、その座敷ん所【とこ】ば歩【さり】いて、

部屋もズウッと臭いかぐ真似して歩【さる】く振いばして、

仕舞いにゃ台所ば嗅【か】ぐ振いばして、

「ありゃ、このお釜ん中の臭いかにゃあ。刀はこけあっばい」

て言うて、最もらしく言うたてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、お釜ば開けてみたぎぃ、宝の刀のあったもんじゃい、

恐ろしゅう大家さんの喜んで、余計【よんにゅう】小判ばくいたて。

「こりゃ、お礼です」ち言【ゅ】うて。

そんなことしょったぎぃ、

まあーだ評判の広がったてじゃんもんねぇ。

そうして、そいから一月【ひとつき】ばっかい経ったぎさ、

「殿さんがさ、死のうごとあんしゃっ」て。

「そいぎもう、そいばぜひ、その鼻利きで、

その原因ば利きわけてくいろ」て。

こりゃまた、難しかにゃあ。

ほんなこて困ったにゃあて、その男も思うたいどん、

逃げるわけには今度こそいかんじゃったて。

そいぎねぇ、もう、殿さんのお城に出かける前に氏神さんにお参りして、

「どうか、耳で利きわけらるっように」

ち、もう一晩中もこがん【コンナニ】してお参りしたて。

そいぎねぇ、チョイと女将【おかみ】さんが話しおんさっちゅう、

夜中に。

そうして、

「お殿さんの病気はさ、

寝床の下てん方に蛇が生き埋めされとっじゃないかあ。

あの祟【たた】いで、この殿さんも、じき死にんしゃっばーい」

て、その女将さんの話しおんさっとの聞こえたてぇ。

そいぎぃ、その鼻利き親父は、

「ありゃあ、こけぇお籠いした甲斐【きゃ】あのあったにゃあ」

ち言【ゅ】うて、お城に呼ばるんままに行たてぇ。

そいぎぃ、お城の大広間に行たてぇ、フワフワの布団の上に座って、

「あの、鼻利きの名人さん、殿様の病気を当ててください。

何【なん】の病気じゃいろう」て言うて、皆が頼むもんじゃっけん、

「この、ぎゃん【コンナ】大広間におっちゃわからん。

殿様の寝所の近くに案内してくれ」て、言うたぎぃ、

「ははあ」ち言【ゅ】うて、案内したてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、クンクン、クンクン、殿様の寝所の下ん辺【にき】ば、

寝所の辺の周いば嗅【き】ゃあでから、

「どうも、この殿さんの寝所の下が怪しかあ。

ここば掘ってみっぎ確【たしき】ゃあ

何【なん】じゃい祟いのあいよっばーい。

【もう生きた蛇ば埋【う】めちぇあっ、て知っとったいどん】

確ゃあねぇ、名ふれた」て、言うたぎぃ、

家来達のもう、

「そいぎぃ」て言うて、一生懸命掘ってみたて。

あったぎもう、蛇の、太かとのクリャーッとなって、

まあーだ生き絶え絶えの様子じゃったて。

そけぇ埋められとったちゅうもん。

そいぎぃ、

「早【はよ】う、こいば出さんばあ」ち言【ゅ】うて、

外さい掘い出【じ】ゃあたぎぃ、

蛇も元気になって逃げて行たいどん、

殿さんの病気もじき治【なお】ったて。

そうして、この鼻利て言われたばっかいで、

余計【ゆんにゅう】褒美ば貰うて帰ったて。

そいばあっきゃ。

[一六四B 聴耳【AT六七〇、六七一】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P118)

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