嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 お爺さんは毎日山に柴刈り行きよいました。

もう、こいが一年中のお爺さんの仕事でした。

今日もお爺さんは柴刈りに行ってねぇ。

そうして、柴を刈っていたところが、

太ーか穴のあったてじゃんもんねぇ。

そいぎねぇ、もうそこにはねぇ、あの、

柴ばぎゃん穴のあって誰【だい】じゃい来て、

こけぇ入【ひ】ゃあいどんすっぎ良うなかにゃあ、と思うて、

柴ば押し込んで入れんしゃったぎぃ、

その柴ば中からスルスルって、引っ張ってさ、

何【なーん】もなかごとなったちゅうもん。

あいば【ソウシタラ】、まあ一把持って来て入れんばあ、

と思うて、また柴ば入れたぎぃ、

またスルスルスルと、奥さい。

気色に奥は広かなあ、と思うて、もう二把しかなかとこれぇ、

どがん奥の方はこの穴ん中はなっとっか、行たてみゅうかあ、

と思うて、お爺さんまでその穴ん中さ、

ゴソゴソ這うて行きんしゃったてぇ。

あったぎぃ、奥の方からねぇ、

「取っ付こうかあ。引っ付こうかあ」て、

声のすってじゃんもん。

そいぎぃ、お爺さんなもう、

「『取っ付こうかあ。引っ付こうかあ』てやあ」

ち、真似て言んしゃったて。

あったぎぃ、小判のさ、お爺さんの体にペタペタペタって、

引っ付いてきたちゅうもん。

そうして、あの穴ん中に何【なーん】もなかった。

そいぎぃ、穴から出て家【うち】さい帰んさいたて。

そいぎ今度【こんだ】あ、

隣【とない】の方に恐ろしか欲の深かお爺さんの

おんしゃったちゅうもんね。

隣の爺さんの体いっぴゃあ小判ば引っ付けて来【き】んしゃったあ」

ち言【ゅ】う話ば聞いて。

そいぎぃ、

俺もただそぎゃん柴どん穴ん中【なき】ゃあ入れたぐりゃあで、

小判ばそぎゃんいっぴゃあ貰うて来【く】んない、

私も行たてみゅう、

と思うて、トコトコそのあくる日、欲深か爺さんが出かけたちゅう。

そいぎ案の定、その穴のあったちゅう。

そいぎぃ、

欲深か爺さんの柴ば刈って。

そうしてもう、転びゃきゃあて入れんしゃったぎぃ、

何時【いつ】んはじじゃい無【の】うなったちゅうもんねぇ。

そいからまた、こうして入れんしゃったぎ無うなったけん、

また入れんしゃったぎぃ、また無うなっ。

そいぎぃ、二把入れて、我がまで入んしゃったぎぃ、

良かろう、こんくりゃあで。

我がも、ゴソゴソ入【ひ】ゃあって来【き】んしゃったて。

あったぎねぇ、中で今【こん】度【だ】あ、

「取っ付かば取っ付けぇ。引っ付かば引っ付けぇ」

て、あの、声のしたてぇ。

そいぎぃ、そぎゃん言うたごと真似【まぬ】っぎ良かとばいねぇ、

と思うて、

「取っ付かば取っ付けぇ。引っ付かば引っ付けぇ」て、

今【こん】度【だ】その欲張りの爺さんが言うたて。

あったぎ何処【どっ】から出て来たもんじゃい、

松脂【まつやに】のペタペタ寄ってもう、

怖【えす】かごと

その欲深か爺さんの体いっぴゃあ引っ付【ち】いてね、

どうもこうもならじぃ、

ほうほう【散々ナ】の体で

そっから欲深か爺さんなお家【うち】さい帰って来たて、

いうことです。

そいばあっきゃ。

[一六三B 取っ付く引っ付く【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P117)

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