嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

貧乏な百姓がねぇ、朝から晩まで働きよったてぇ。

そいが何時【いつ】も貧乏ばっかいしとった、ちゅうもんねぇ。

ところが、ある晩、夢を見たちゅう。

夢ん中でねぇ、真っ白か髭【ひげ】を生えた年寄いが出てきてさ、

「お前【まり】ゃ隣村との境い目、橋の所に行ってみっぎぃ、

必ず良かことのあっぞう」て、

そのお爺さんが言うて、消えたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、たったそいだけの夢じゃったいどん、

目が覚めたぎぃ、そいばなしじゃい【ナゼカ】ほんに気になって。

そいぎぃ、騙されたごとして行たてみゅうかにゃあ。

今日【きゅう】は仕事もなかもん、と思うて、

仕事も手につかんごたんねぇ、気になっけん行たてみゅう。

クヨクヨしとっとよい、行たてみゅう、と思うて、

その男、行たちゅう。

そいぎぃ、夢に見たごーと村境いに橋があったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、そこさにゃ

テクテク行たて、村境いの橋に行たて。

あいどん、誰【だーい】もそこん辺【たい】おらじぃ、

物音もせじ寂しいもんやなあ、と思って、

その橋ん所、行たい来たいしおったら、

隣村の方から、反対側の方から誰【だい】かテクテクやって来た。

そうして、橋の上に腕組みして

何【なん】じゃい考えごとしおっごたふうじゃったそん男に会うて、

「お前【まい】さんは、そこで何【なん】しおっとやあ」て、聞いたて。

そいぎぃ、そん男は、

昨夜【ゆうべ】見た夢んことば話【はに】ゃあたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、隣村から来たその男も、

「私【わし】もさ、昨夜【ゆうべ】夢ば見たとよう。

そいがねぇ、私【わし】にも白ーか髭【ひげ】の爺さんが来て、

お前さんは、『お宮の銀杏【いちょう】の木の下ば掘れぇ』て。

そいぎぃ、『良かごとがあっ』て言ったよ。

夢じゃっけんなあ」て言って。

そうして、

「まあ、まあ、夢の言葉もんなあ。本当のことじゃあんみゃあ」

と言って、

「私【わし】ゃ仕事が先あるからー」ち言【ゅ】うて、

「ごめん。ごめん」ち言【ゅ】うて、

スタコラスタコラ向こん方さい行たてしもうたて。

あいどん、男はどうも我が見た夢は、

はっきり覚えて気になって仕方がなかにゃあ。

打ち消そうと思うぎぃ、余計【よんにゅう】覚えて折角来たもん。

まあーだ根気強ようここにおってみゅう、と思うて、おったて。

あいどん、誰【だーい】も来【こ】んじゃったて。

そうして、とうとう夕方になったけん、

やっぱい夢は夢じゃったもんなあ、と思って、

家【うち】さい帰らんばあ、と思いかかって、

道々、あいどん、あん男の夢は

お宮さんの銀杏の木の下【しち】ゃあば掘っぎ良かけんがあ、

ち言【ゅ】うたあ。

あいも気になるなあ。

お宮さんな道ん途中にあんもん。立ち寄ってみゅうかあ、

と思いんしゃったちゅう。

そいで行たぎぃ、ほんなこて銀杏の木のあんもんじゃい、

銀杏の木の下で、もう日暮れかかったいどん、

今日【きゅう】は一日遊【あす】うだもんなあ、と思うぎぃ、

余計【よんにゅう】寂しか気持ちやったいどん、

あいどんここば掘ってみゅうかあ、と思うて、

ソロリソロリ掘りかけたぎぃ、

「カチッ」と、いう音がしたちゅうもんねぇ。

ありゃ、何【なん】じゃい埋まっとっ、と思うて、

また掘っていったぎぃ、千両箱の出てきたちゅう、ねぇ。

そいぎさ、その男はそいこそ腰抜かすごとびっくいして、

「昨夜見た夢は正夢じゃったばーい」ち言【ゅ】うて、

胸をワクワクさせて我が家さい持ち帰って、

そいから先ゃ金持ちになんしゃったて。

そいばあっきゃ。

[一六〇 味噌買橋【AT一六四五】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P115)

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