嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかしねぇ。

お隣同士旅行しおったてぇ。

男の人がねぇ、

ズウーッとテクテク、テクテク歩いて旅行しおったらねぇ、

「ああー、草臥れたけん、

ここん辺【たい】で一時【いっとき】休もうかあ」て言うて、

あの、良か塩梅【んびゃあ】な木陰に二人とも、

昼寝してお休みしとった。

そして、やっとしばらくは休んでから、また立ち上がって、

「こりゃ、折角早【はよ】う出かけんば、日の暮るっばい」

ち言【ゅ】うて、

テクテク、テクテクまた山道を歩いて行きよったら、

一人の男が、

「あらっ、ちょっと待ったい。

ここで止まってちょっと、私【わし】ゃあさっき休んで、

ちょっとウトウトて眠った時に夢見た。

そいがこけ良【ゆ】う似とっけんなあ」

「どがん似とっとう」ち言【ゅ】うて、

「杉の木の三本まっすぐかとの、

同―じ間隔で生【お】わっとっとのそっくりだよ。こことそっくり。

そしてほら、向こうん方に橋のあって、川の流れとっ。

そっくりだよ。この三本の杉の木の夢ば見たよう」

「そいぎぃ、その夢はどがん夢じゃったあ」て、聞いたら、

「何【なあーに】、たいしたことはないさあ」

「でも、その夢ば話【はに】ゃあーてみんさい」て言うたら、

「そりゃなあ、三本杉のある真ん中の杉の下ば掘ったらさあ、

その下に千両箱の埋【い】かっとった夢見た」て。

「ほんなこと、元も夢見て。お前【まい】さんな旅ば続けない。

私【わし】ゃもう、千両箱にあいちいたけん帰いよ。

千両箱ば担【かつ】いで私【わし】ゃ帰いよったあ」て。

「そいぎぃ、掘ってみゅーかあ」

「何【なあーに】、あくたいね。

そんなあくたい夢だよう。

他所【よそ】で昼休みに見た夢ぐりゃあ、あくたい夢。

そんなの当たるもんか」て、言うたら、

連れの男がね、

「そんなら、私【わし】にその夢ば売ってくれ」

「そんなら、その夢ば幾らで買うやあ」て、言うたら、

「幾らなら売っ」て、言うたら、

「さあー、とてーも草臥れ儲けぐらいのこんやから、

お前【まい】さんの、お前さんがどんくらいで良かか言うてみぃ」

「米一俵でどうかなあ」て、言うたら、

「米一俵もくるんなら、喜んで売るよう」て言うて、

米一俵【いっぴゅう】で約束してね、

「じゃ、今度【こんだ】あ反対にお前さんが旅を続けなあー。

私【わし】はここで千両箱あるかないかは知らん。

そいでも、君から買【こ】うたったから、必ず米一俵はやるよ。

米一俵で買ったんだから」ち言【ゅ】うてからね、そこで別れたて。

そして

近所の農家から釣【つる】梯子【はし】を借って来て、

その真ん中の杉の木の下【しち】ゃあ、

カッツカッツ、カッツカッツ掘ったけど、

何【なん】のあるごたっ様子もなか、

出てくっとは瓦のごたっとばかい。

そいでコツコツ、コツコツ二日も三日も掘ったらね、

随分掘ったけど、何事【にゃーごと】なか。

「ああー、もう十日もこんなこと馬鹿らしかことして掘いよいよっ。

そいでも、たかが米一俵」て。

「何【なん】もなかったら米一俵やるだけたい」ち言【ゆ】うて、

セッセッ、セッセッと、あるかないかわからん、

その三本杉の真ん中の杉の下を掘いよったらね、

カチーンと、十日目に当たったて、釣梯子の。

そうして、

「ありゃ。今のは金【かね】の音がした。

瓦じゃなかごたったあ」ち言【ゅ】うて、

そいから元気が出て、一心に掘ったらね、

まぎれもなく千両箱じゃったて。

そいぎ

その千両箱ば担いでエッサエッサと故郷ば目指して帰って来たて。

そいぎ

連れしとった隣【とない】の旅の男は、もう旅から帰っとったち。

そうして、

「馬鹿みたろう。骨折い損の草臥れ儲けやったろう」

て、言うたら、

「いんにゃさ、本当だったよ。でもほら、米一俵やる」

「本当だったか。そいぎ米一俵分貰【もろ】うていいなあ。

私ゃあ米一俵得したよう」て言うて、喜んだけど、

こっちの方は、千両も入【はい】った金が入って、

もうそれから楽なその後の一生ば送ったて。

チャンチャン。

[一五八 夢買長者【cf.AT一六四五A】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P112)

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