嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 ズーッとむかしのことじゃったあ。

お寺ん前に狐のおったちゅうもん。

そいからねぇ、山奥の山ん根の方に狸がおったてぇ。

月夜の晩にさ、

「搦【からみ】に何【なん】じゃい良か魚【さかな】どんが、

ここん辺【たい】泳ぎおんみゃあかあ」ち言【ゅ】うて、

狐も狸も出かけて、出っかしたちゅう。

二人とも魚は捕いぎゃ来たちゅう。

そいぎゃ、狐さんが言うことにゃ、

「狸【たぬ】公【こう】、

お前【まい】さんも魚捕ろうど思うて、来たとやあ」て。

狸公もまた、

「狐さん、お前もじゃろうだーい」て言うて、話しおったてぇ。

そうして、その晩はしこーたま、何【なん】じゃいかんじゃい、

魚をその太かとやら、小【こま】かとやら捕って、

良か気分で帰よったちゅうもんねぇ。

そうして、道々狸さんが言うことにゃ、

「狐さん。お前【まり】ゃあ、良か女【おなご】に化けゆうだーい」

て言うた。

「そうよ。化けゆっさあ。

鼻も高【たこ】うして、姿もスラッとして良か女に化けゆっ」て言うた。

そいぎぃ、狐が狸さんに、

「お前【まい】も、

大抵【たいちゃ】化け方てん、騙し方てん上手で騙しおろうだーい」

て、いう話から、

「そいぎぃ、明日【あす】の晩なさ、

魚捕いぎゃ来【く】っついでに化けごろしてみゅうかあ」て、言うたて。

「うん、うん。そうしょう。じゃ、ねぇ」ち言【ゅ】うて、

狸さんと狐さんな別れたちゅう。

そうして、その明日の晩になったぎぃ、

狐さんな、狸が良か女て言うたけん、今【こん】度【だ】、

年寄【としお】いの坊さんに化けてみゅうかにゃあ。

良か女に狐の化けたとば見たごとあったとばいにゃあ。

年寄い坊さんに化けたこんな知らんばい、

と思うて、年寄いお坊さんに化けたちゅう。

そうして、法事から帰よっごたふうで、

油揚げは沢山【よんにゅう】重箱に下げて来【き】おったちゅう、

狐さんな。狸さんな狸さんで、

そいぎぃ、狐は化けらるって、あぎゃん言いおったけん。

あいどん、女【おなご】、娘には化くっとん、

子供には化けてみたごとあろうかにゃあ。

提灯ば今夜は暗かけん、子供に化けて、

こう行たてみゅうかにゃあ、と思うて、

子供に化けて行きおったてぇ。

あったぎぃ、道ん途中ですれ違うたちゅうもんねぇ。

あっどん、坊主さんなさ、

「子供に俺【おり】ゃ用事はなかもんにゃあ。」て言うて、

スタコラ行きんしゃった。

そうして、子供はさ、

「坊さんにゃ用事はなかもんにゃあ」ち言【ゅ】うて、

狸はその狐とすれ違うたて。

そうして、狸も狐も、

狸は今夜は約束も守らじぃ、悠々と寝とっばいにゃあと。

狐は狐で、狸は化けえんじゃったとやろうかにゃあて。

すれ違うたことは思わんで、

そぎゃんお互いに思【おめ】ぇおったて。

そいばあっきゃ。

[四  動物昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P25)

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