嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしむかしねぇ。

もう、ぎゃん開【ひら】けとらん所【とけ】ぇ、

車も余【あんま】い通らん、もう皆テクテクテク歩いたり、

たまーに町さい行くぎ人力車の通っぐらいのもんじゃったてぇ。

そいけん山やらねぇ、坂道のごたっ所【とけ】ぇばい、

狐てん狸てんほんに出て騙しおったちゅう。

そいぎぃ、どっちが上手て言われんごと。

ある時と通いおっぎぃ、

竹ばサオサオサオーって、一時【いっとき】すっぎザアーッて倒れるて。

ほんなこて木の倒れおっごたっ音の、上手な音の聞くちゅうもんね。

行たて見っぎね、そこにはねぇ、あの、

狸のキョトーンとして座っとったいしおった。

そいからねぇ、峠道ば日暮れに行くぎぃ、

頭の上に木の葉どんチャンとのせてさ、

そうして、きれーいか赤【あっ】かごと着物どん着てねぇ、

サッササッサ娘さん気取りで行きおっとの、

尻尾のブラーンと。ありゃあ、あれ、狐ばいていうごたっふうで、

どっちがどっちて言われんごと化けし上手の、

峠道はもう、狐てん狸てんほんにぎょうさんおったちゅう。

ところがこのねぇ、

獣の世界でもいろいろあってさ、

狸と狐とね、何時【いつ】じゃい出っかしたちゅう、

月夜の晩に。そうしてねぇ、

「あら、狸【たぬ】さんじゃったかあ」

「ああ、コンコンさんじゃったかあ」て言うて、二人はねぇ、

「ちょうど良かとき会うたあ。

人間どもはどっちが上手て思うとろうかあー」

ち言【ゅ】うて、狐さんが言んさっかかったぎぃ、

狸さんの、

「そりゃあ、狸が上手て思うとんに違ゃあなかたあー。

あの、竹どんがザワザワザワって切って、ザオーッて倒すぎぃ、

あすこん辺【たい】の坂道は通らんもん」て、言うたて。

「いんにゃあ。私【わし】ゃばーい、

和尚さんな油揚【あぶげ】でん何【なん】でんもう、

早【はや】かよう。

魚売いさん達ゃあ、肩の荷ばかくって交わしんさっ間もなく、

ちょっと魚の一匹、二匹とうとうわけないよう」

て、言うたて。

「そう。そんならいっちょ化け較べしゅうかあ」

て、言うことになってぇ、

坂ん上で。

そいぎぃ、

「明日の晩の十六夜のお月さんが出たこの杉の木の真上に出た時分、

ここで会うて化け較べしゅう」て言うた。

そいぎねぇ、狐さんが早【はよ】う来とった。

そいぎ私【わし】が早かった。

まあーだ狸は来とらん。

狸はジュクッジョキってしとっけん、ひとつ煙突に化けてやろう、

と思うて、煙突の高【たーか】っかとに狐が化けとったてぇ。

そいぎ一時【いっとき】もう、その煙突に化くん間もなく、

チョロチョロチョロ、ゴソゴソゴソって、

あの、萱【かや】ん穂の揺れたと思うとったぎねぇ、

狸が来とったて。

そうしてねぇ、何思うたいろう、

ほんな煙突の側にさ、

竹ん子の短【みーし】かとのちょって立っとっちゅうもん。

ありゃあ、竹ん子にしか化け得らっさん、て思うとったぎねぇ。

その竹の伸びっこと伸びっこと、

伸びてねぇ、小【こも】うばっかいしとらんやったて。

そーうしてさ、煙突よい高【たこ】うなっちゅう、竹があ。

そうしてねぇ、

「その竹較べ大したもんにゃあー。どっちがどっちて言われん」

て、あの、狐さんが言うたぎね、

「高さ較べじゃいだろうだい」て、狸さんが言うた。

そいぎぃ、

「またんたびゃあ【コノ次ハ】、

今日【きゅう】ばっかいがおしまいじゃなし、

まあ一遍化け較べしゅう」

ていうことになって、

その日はね、狸さんが勝ったちゅう。狸さんが一枚上やったてねぇ。

そうしてねぇ、とうとう明くる朝の来たて。

そいぎねぇ、猟師さんのさ、猟師に化けて、

あの狸ばいっちょ鼻ば明かさんば、

我がよいか高【たこ】うなったと思うて、自慢しとっかわからんて、

狐が思うたもんじゃい、

明日【あした】の朝は夜通し寝じぃ、今度【こんだ】あ猟師に、

猟師さんに化けて、いっちょ鼻ば明かしてやろう、

と思うてねぇ、

あの、捕まえんばあ、と思うて、

狐は早【はよ】―う峠にまた、行かしたちゅう。

あったぎねぇ、あの、もう狸はさ、

草籔【くさやぶ】の中【なき】ゃあ隠れて

猟師がそこん辺【へん】ウロウロ、ウロウロしよっちゅうもんね。

狸の出て来っぎ捕まゆうで、思うとったちゅうもんねぇ。

あったぎねぇ、

「ああー、こりゃあ昼近【ちこ】うなっばってん、

狸ゃとうとう来【き】わえん」ち言【ゅ】うて、

あの、狸がヒョロッと猟師さんになったて。

そいぎんとにゃ、あの、狐がね、

「あらーあ。我がこと猟師さんになって、狸ば捕まえとったぎぃ、

お前さんが猟師に、もう化けて来とったてやあー」

て言うて、

二【ふ】人【たい】どめ猟師さんに化きゅうど思うとったとば、

二人で鉢合わせして、笑い転げた。

まあ、化かしようはそん時そん時で、

どっちがどっちて言われんて。

狸も化かす。狐も化かす。

チャンチャン。

[三  動物昔話その他] (出典 蒲原タツエ媼の語る843話P23)

標準語版 TOPへ