嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

蛙さんも山【やみ】ゃあおったてばーい。

そうして、兎さんと仲良く遊びよったてぇ。

あったぎねぇ、お山にも正月のきたてじゃんもん。

そいぎ二【ふ】人【ちゃい】で、

「正月やんもん、お餅どん搗こうやあ」ち言【ゅ】うて、

ペッタンペッタン、ペッタンペッタン餅ば搗きおらしたちゅう。

じき搗き上がったもんじゃい、

「あいば、仲良く分きゅう。

何時【いつ】ーでん仲良く遊ぶ友達じゃっもん」

て、言いおったところがもう、

餅の立派に搗けたとのペタペタ、ペタペタくっついて、

臼から餅の離れんてぇ。

引き上ぐうですっぎすっほど難しかてじゃんもん。

「ああ、どうしよう。困ったねぇ、兎さん」て、

蛙さんが言うぎぃ、兎さんも、

「こがーんひっついて困ったなーあ。分けようがないなあ」て、

二人困っとったてぇ。

「こげん臼からはとても上げられんばーい。どうしよう」と、

言うことになって、兎ちゃんが言うことにゃ、

「蛙さーん。お餅ゃあ、臼からは上げえんばーい。

とても上げえん。

そいぎぃ、山から臼ば転ばきゃあてみゅうかーあ」て。

「そうして、下ん方で臼から餅のこぼれたとば、

下ん方で食ぶっぎぃ、こいよい良かことはなか。

早【はよ】う行た者【もん】が、

あの臼から早う食うて良かことに、こぎゃん決みゅうかあ」て、

兎さんが言うたぎぃ、

もう根が正直【しょうじっ】か蛙さんじゃんもんじゃい、

「そうすっしかなかねぇ。そうしょう、そうしよう」と、

じき賛成したて。

「そいぎ良かもんねぇ」て、言うたて。

そうして、一、二の三で山からコロコロ、コロコロ

臼ば転ばきゃあたてぇ。

そいぎねぇ、兎さんなあ、ピョンピョン、ピョンピョン跳ねて

下【した】さい行たちゅうもん。

あいどん、蛙さんな、ピョンて跳んじゃあ、

一時【いっとき】休んで。またピョンて跳ぶ。

そいぎぃ、なかなか兎さんにゃ追いつかん。

もう兎さんな下【しち】ゃあ行たとったあ。

山ん下【しち】ゃあやったあ。

あったぎぃ、蛙さんなねぇ、ヒョーッと横っちょば見たぎぃ、

その臼の転んだあとに真っ白か餅のさい、

木の枝にブラーッて、ベッタイくっついとっちゅうもん。

「あら、こけぇお餅のあったい。もう下まで行かんてちゃ」て、

言いながら、もうお餅ば食べおらしたちゅう。

そして、またピーンて、下【した】さい行くぎぃ、

また美味【おい】しいか餅の引っ掛っとる。

「ああ、美味しい。ああ、美味しい。美味しい、美味しい」

て言うて、その、

ピーンて跳んじゃ、お餅食ベ。ピーンて跳んじゃ、お餅食べ。

あったぎぃ、山ば駆け降りて行た兎さんなねぇ、

早【はよ】う取って食びゅうで思うて行かしたのに、

太ーか臼の上ん方から、

ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロ転うできて、

こいば受け止めんばと思うて、

前の手ばヒョッと出【じ】ゃあたぎねぇ、

臼のそけぇ乗って、骨の前足の折れたちゅうばい。

「ああ、痛い、痛い」ち言【ゆ】うて、

兎ちゃんな餅んだんじゃなしぃ、泣かしたちゅう。

蛙さんは、そぎゃんとは目にもかからじぃ、

「ああ、美味【おい】しい。ああ、美味しい」

ち言【ゅ】うて、餅ば食べおらすもんじゃい、

お腹【なか】はもう張いさぐっごと恐ろしか太うなって、

「ああ、もういっぱい食べて動きはえん」ちて、

この蛙さんも泣きおったちゅう。

こぎゃんしてねぇ、蛙さんのお腹はもう、

はちきるっ【満チ破レル】ごと何時【いつ】ーでん太うかて。

あったいどん、兎さんな前足は、その臼ば受け止めた拍子、

骨のちい折れて短【みじこ】こうなってしもうたて。

チャンチャン。

[二〇 猿蟹餅競争(cf. AT九C)(類話)] (出典 蒲原タツエ媼の語る843話P4)

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