嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

川獺【かわうそ】と狐とおったちゅう。

そうして、何時【いつ】ーでも、川獺は川から上がって、

狐は山からやって来て、二人よう遊びよったちゅうもんねぇ。

「ほんに、ぎゃん日の長【なご】うなっぎぃ、

何【なん】しゅうよんなかねぇ」

「そいぎぃ、何して遊ぼうかあ」ち言【ゅ】うて、

川獺が狐さんに、

「ご馳走ごっこどんしてみゅ羽化あ」て、言うたぎぃ、

狐さんが、

「そりゃあ、良かろう」て、じき賛成したて。

「そいぎぃ、誰【だい】ば先しゅうかあ」て。

「川獺、あんた、川の根つう【川ノ側】じゃんもん。

あんたから先、ご馳走をしてくんしゃーい【クダサイ】」て、

狐が言うたて。

そいぎぃ、

「よし、承知したあ」て言うて、

川獺が、今日【きゅう】は、狐さんをお招きするとだけん、

メカジャ【貝類】ばどっさい取って、

そして、雑魚どんもどっさい取って来て美味【おい】しう煮じめて、

「ほんに美味【うま】かねぇ。美味かねぇ。

『ご馳走ごっこ』て、良かこと思いついたねぇ」て言うて、

その日はもう、夜遅うまで

狐と川獺は二人【ふたい】で飲んだい食うたいして過ごしたて。

そいぎぃ、

「明日【あした】は狐どん、あんたの番よう」

「承知した」て言うて、狐は承知して山さい帰って行ったて。

川獺どんは明日になっとば待ちきれぃ、お昼前から、

「こんにちは」て、狐の家【うち】に出かけたぎぃ、

狐は天上ばあっかい見て知らん振【ふ】いしとって。

そいぎぃ、

「狐さん、どがんしたとやあ」て言うぎぃ、

「今日は天上の神さんの『上ん方ば見ろ』てやっけん、

上ば見よっ」て。

「あいどん、

今日はあんたが、ご馳走して招【よ】ぶ番じゃったろうがあ」て、

言うたぎぃ、

「ご馳走も何【なーん】も準備しとらんもん。

天の神さんの、『上ん方ば見ろう』てやっけん、見よっ」

て、言んしゃったて。

「そうねぇ。そいぎぃ、明日はご馳走しときんしゃーい」

「うん。明日ねぇ」て言うて、別れた。

そいぎまた、翌日になってから川獺が、

イソイソと狐さんの家にやって来たら、

狐さんな、ジィーッと胡座【あぐら】かいて、地面ばっかい見よっ。

「あら、狐さん、どうしたとう。今日もお御馳走でけんじゃたとう」

と、川獺が言うと、

「地面の神さんの、

『こっちば見よれぇ』て、神さんに命令されたけん、

地面ばっかい見よっ」ち言【ゅ】う。

「そいぎぃ、お御馳走はせんじゃったねぇ」て。

「お御馳走、取いぎゃ行く暇なかもん。地面ばっかい見よっぎぃ」

「あら、そがんやあ。

約束ば、我がばっかいご馳走食べに来て損したあ」ち言【ゅ】うて。

「明日は、すっすっ」ち言【ゅ】うて、川獺は少し不平だったと。

「そうねぇ。明日は約束を守ってよう」て言うて、

川獺は念ば押したと。

そいぎぃ、狐さんが川獺さんにお尋ねするには、

「そいぎぃ、何【なーん】もご馳走すっ材料ば持たんどん、

あんたは魚【さかな】でん、めかじゃでん、どがんして取ったねぇ」

て聞いた。

そいぎぃ、川獺は、ほんに二日もすっぽかされて歯痒いさから、

「あのねぇ、川の明け方の寒【さむ】ーか時にさ、

釣り糸を垂れておっぎぃ、めかじゃでん、鮹【たこ】でん、

どっさいつくっ」て。

「あんたは尻尾ば持っとっけん、

その尻尾ば何よりも釣い糸のごとしとったい。

そいば川に、こうして明け方の冷【ひ】やかあ時、つけとっぎ良か。

そいぎぃ、沢山【よんにゅう】釣るっとよう。

そいばご馳走すっぎ良かあ」て、こう言った。狐は、

「そうねぇ」て、言うてから、

狐さんは川獺に教えられたごと、夜の明けんうちと思うて、

冷やか時川に行たて、尻尾ば川につけとったぎぃ、

だんだん、だんだん冷ようなってくってじんもんねぇ。

ブールて、震るうごとあっ。

ああ、冷やかあ、と思うけど、

動くちゅうと、バシャバシャて、尻尾の重【おふと】うなっ。

「ありゃあ、めかじゃあのかかいよっとばいのう

【バチーバチーて、言うてやんもん。】。

だんだん側に何【なーん】じゃい触【さわ】いよったごたっ。

ありゃあ、ざこの沢山【よんにゅう】寄ってきよっばーい。

沢山取るっごと。まあ一時【いっとき】してから上ぎゅう。

まあ一時してから上ぎゅう」て、言いおっうちに、

だーんだん夜が明けてきたて。

そいぎ狐さんは、振り返って尻尾ば上ぎゅうですっどん、

なかなか尻尾が上がらんちゅうねぇ。

そいぎぃ、見てみたら、もう尻尾が氷の中にはまっとったて。

あらー、氷も張っとった。

魚【さかな】も沢山【よんにゅう】釣れとっとに違いなかと思うて、

ウーンと、力ば入れて上げんしゃったところが、

何【なーん】も、ざこも、めかじゃも取れじぃ、

尻尾はその氷のためにつん切れたちゅう。

そぎゃんねぇ、川獺は真面目に働きおったどん、

狐さんは騙し方どんばっかい上手で、

こういうふうで怠けん坊じゃった。

約束は破るし、敵討ちされんしゃったとよう。

そいばあっきゃ。

[三 川獺と狐(AT二)]
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話P1)

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