嬉野町大野原 朝日ヒデさん（明36生）
むかし。
爺さんと婆さんがおんさったて。
爺さんは田を耕し、婆さんは破れた障子の内側で糸車を回しておんさった。
ある日、爺さんが山に行って、狸を捕まえて家に帰ってきて、
「明日（あしちゃあ）は狸汁ないとんしゅうで」と婆さんに言いながら
捕まえた狸を鴨居に下げときんさっぎぃ、翌日、婆さんが、
「米搗かんまらんやった」と、つぶやきながら臼で搗きよったら、狸が、
「婆ちゃん。きつかろう。きつかろう」て、言うて止（や）めんもんで、
そいぎぃ、
「いんにゃあ」と、言いよったばってん、
「きーつかろう。きーつかろう」と、狸が言うもんだから、
「俺が搗いて加勢すっけん」と、言うもんだから、
婆さんは、狸に米を搗かせないたところが、
米は搗かんで婆さんの頭を杵でバチャンと、うち殺してしまった。
爺さんが山から帰ってきんさったら、
狸は婆さんに化けて、爺さんが狸汁と思うて、
「うまい。うまい」と、言いながら食べておったところが、
棚の上に婆さんの頭を置いていた。
兎が出て来て、
「俺が婆さんの敵（かたぎ）を討ってくるっけん」と言って、
山に行って豆をポリポリ食べていたら、そこに狸が来て、
「おい、兎どん。豆を一つくれんかん」と言った。
「じゃあ、俺の加勢をしてくいない」と兎が言って、
狸は焚物を取りに行き、兎が石を叩いて狸の背中の薪に火をつけた。
狸は、
「何故カチカチと、音がするのかな」と兎に問うと、兎は、
「ここは、カチカチ山だからさい」と言った。
狸の背中の薪がボウボウ燃え出すと、狸は、
「何故、この山はボウボウ言うのかね」と問うと、兎は、
「ここは、ボウボウ山だからさい」と言った。
狸はとうとう火傷をしてしまった。
兎が火傷の薬と言って胡椒をつけてやったので、狸は、
「痛か。痛か」と言って、困りはてているところに、
「川遊びに行こう」と言って、狸を土舟に乗せて川に沈めて殺してしまった。
そいばあっかい【それでおしまい】。
（出典 嬉野の民話 P37）
