嬉野市下不動 井上カツさん(大3生)

 むかし。

ある男が長崎から上方(かみがた)へ、大工仕事に行ったそうです。

その男は大工の技術がすぐれていたので、親方さんの娘と結婚しました。

ある日、その男は、

「とにかく俺ゃあもう、長いこと長崎に帰っとらんから、帰ろう」

と言って、帰って行ったそうです。

帰ってきたら、そのお母さんが、

「お前に立派な嫁御ば、こっちにちゃーんと決めとるけん、

もうあっちに行くことはでけん」と、きつく言われました。

男は上方に戻らなかったそうです。

親方さんの娘は、すでに身籠っていました。

私の主人は、どうして帰って来ないだろうか、と思いながら、

嫁はとうとう長崎まで行ったのです。

そして、主人の家へ行くと、その母親が、

「息子はおらんけん【いないから】」と嘘を言いました。

身籠った嫁は、主人を捜して歩きました。

疲れ果てた嫁は、ある一軒の家に行き、

「私は、こがんこがんですけど、もう赤ちゃんも生れるけん」と、

言い残して死んでしまいました。

身籠った嫁の死体は、お寺に葬られました。

それから毎晩、顔色の青い女が飴がたを買いに来ていました。

ある晩、その女が飴がた屋の親父さんに、

「親父さん。私ゃ、今夜(こんに)ゃまでしかなあ、もう来(き)わえん、

ここはほんに水の不自由かとのあったの。

何処かいちばん水場所はよかですか」と聞きました。

すると、飴がた屋の親父さんが、

「東側のほんな床(とこ)の間(ま)ン所の方向が、

いちばんよかろうごたっけん【よいようだから】」と言いました。

顔色の青い女は、

「私が、かんざしばな、落としとるからなあ、そこば掘んさい。

見立ててきますから」と言いました。

飴がた屋の親父さんが、そこを掘ったら水が湧き出たのです。

それから、顔色の青い女は、

「私ゃ、墓ン中で子ば産んどっ。

そいけんその、私の墓の中から引き出してですねぇ、

その子ば、お寺に子供さんのおんさらんけん、

坊さんが欲っしゃしとんさっけん、そこに預けて、太うなしてくいろう」

と言って、頼みました。

飴がた屋さんは、お寺の坊さんにその女の話をして墓を掘りました。

墓の中から生きた赤ちゃんが出てきました。

坊さんは赤ちゃんを預かって育てました。

後に、その赤ちゃんは成長して、偉い坊さんになりました。

だから、今でも長崎の何処かに湧き水が出ていると言います。

また、「腹の中の赤ちゃんは出して埋(い)けるもん」と言うそうです。

[大成 一四七A 子育て幽霊]

(出典 嬉野の民話 P80)

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