嬉野市東吉田　峰　マツさん（明26生）

　信田の森は、あの殿さんが病気で、

信田の森の狐を捕って、それを食べられたら、

殿さんが治られたと言います。

それで、猟師が捕りに行ったら、狐が出てきたんですよ。

このようにして来たけど、逃がさえたそうです。

そうすると、あのお姫さんだろうか、

嫁さんに来られるはずだったそうです。

それで、町を狐が人間になって化けてました。

それから、いよいよ、その嫁さんになられたそうです。

そうしたら、今度は、子を持たれたそうです。

そして、子が大きくなり、機（はた）を織っていたら、

「お母さん、尻尾が見えます。尻尾が見えます」と言ったそうです。

それで、子から見られたと思って、

そこから障子に三十一字も書いて、出たそうですね。

葛の葉姫になって、見せかけていたけど、

今度は、子から見られたので出られたということです。

それで、今度は、自分が、

「あの、なんでも食わすっ物ば食え」と。

そうすると、子が、

「何でも食うぎにゃ人から、あの、『あいば食うた。こいば食うた』

と、言わるんもんじゃっけん、わが、親のちゃあーんとして食わすっけん」

と言われたそうです。

どうして、いつもついていないから、

「お母さん、尻尾が見ゆる。尻尾が見ゆる」と、

言うものだから、そこにいることが出来ず、出られたてそうです。

子から見られて。

「信田の森に棲む狐」と歌があったです。

三十一字も障子に書き残すと言って。

恋しゅうござるが尋ねてござれ私ゃ信田の森に棲む

と言って。

 

（出典　嬉野の民話　P76）

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