嬉野町上吉田 江口小八さん(明38生)
むかし。
琵琶湖の話じゃっと。
魚が嫁御なって、子供をひとり産んで、
「琵琶湖に、わがはもう一緒におられんけん。
あいどん【しかし】、子が泣く時にゃあ、
この目ン玉ば、いっちょしぶらすぎにゃあ、泣かんごとなっ」と言って、
親父に目ン玉を一つ渡して自分は海の中にガボッと、入る直前に、
「時々、海に入っとっけん、顔ば見すっけん、
子供に会いたかけん、連れて来(け)ぇ」と言った。
子供は目ン玉をしゃぶっている時は、何もなかったようにおとなしかった。
しかし、子供は目ン玉を嘗(な)めてしまい、泣くので親父は困った。
親父は子供を海辺へ連れて行き、
「子どんが、目ン玉ばしゃぶってしもうて泣いて困るけん」と、
言っていたら、魚が浮き上がってきた。
そして、もう片一方の目ン玉を取って、
「そいぎにゃあ【そうしたら】、またしぶらすっぎにゃあ」と言って、渡した。
しかし魚は、
「あの、俺ゃ両方の目ン玉ばやってしもうたけん、
夕暮れじゃい日暮れじゃい、いっちょんわからん。
そいけん朝と晩に、お寺の暮れむつの鐘と、明けむつの鐘ば鳴らしてくいろ。
そいぎにゃあ、そいで、こりゃ今のうは朝ばい。
今のうは夜(よ)さいばいちゅうことのわかっ」と言った。
そして、
いついるや波音の月は
三井寺(みいでら)の鐘の響きに明くる湖
そういうわけで、暮れむつの鐘は鳴らすわけげな。
[大成 一一〇 蛇女房]
(出典 嬉野の民話 P70)