嬉野町真上吉田 林田 豊さん(明24生)

 むかし。

山の田ンんぼに、水をやっても溜らなかったと。

親父さんが、

「俺の田ンぼに水ば入れてくれたら、娘ば嫁にやっばってん」と、

独りごとを言った。そしたら、猿が出てきて、

「親父さん、今いうたことは本当かあ」と言った。

すると親父さんは、

「本当さい」と言った。

猿は娘を欲しかったから、山の田ンぼに水を入れてやった。

親父さんは、猿が水を入れてくれると、思わなかった。

しかし、親父さんは心配になり、ご飯も喉を通らなかった。

いちばん上の娘が、

「どがんか、ありゃあせんねぇ【ありはしませんか】」と言った。

すると親父さんは、

「どうも具合は悪くなかばってん【悪くはないけれども】、

ぎゃんふうで【こんなふうで】、猿と約束したけん、

嫁御(よめげ)ぇいかんばたん」と言った。

娘は親孝行者だったから、

「そがんしゅう【そんなにします。嫁になります】」と言った。

娘は花嫁道具に大きな味噌・醤油の甕(かめ)を持って行くことにした。

猿が嫁を迎えに来た。

娘は猿に甕を背負(かる)わせて行っていたら、川を渡らなければならなかった。

川を渡って行っていたら、深くなり猿の背負うている甕に水が入った。

そして、猿は溺れ死んだ。

それで、娘は猿の嫁御ぇならずに戻って来た。

だから、

「親の言うこと聞かんばばい。

親の言うこと聞かんぎぃ、そういうふうなことはならん」と言って、

私どま聞きおったですよ。

[大成 一〇三 猿聟入]

(出典 嬉野の民話 P68)

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