嬉野町下不動 井上カツさん(大3生)

 むかし。

あるところに、金持ちの娘さんがいましたと。

箱入り娘さんだったから、倉の中で暮らしておりました。

ある日、十七、八の娘さんになった頃、

蛇が立派な侍になって、

倉の中へ迷い込んできたのです。

侍は娘さんを好きになりました。

そして侍と娘さんは、夜遊びするようになったのです。

そのことに気づいたお母さんは娘に、

「お前(まり)ゃあ、夜遊びば誰(だい)としよっかあ」と聞きました。

すると、娘さんは、お母さんに隠しても仕方ないから、

「お母さん、夜(よん)の夜中に、こんなにして立派な侍がですねぇ、

枕元さい這い入って来っじゃいわからんと。その男と遊んだ」と言いました。

お母さんは心配して、

「そうか。どがん人かあ」と言って、聞きました。

しかし、娘は、

「よう、わからん」と言った。

すると、お母さんは、

「もう、今度来た時ゃねぇ、針に糸をとおして、侍の袖に抜いて、

糸ばずうっと辿(たど)ってやれ。そこまで辿ってやれ」

と言って、教えてくれました。

ある晩、娘さんは侍にお母さんから教えてもらったとおりにしました。

お母さんは娘に、

「お前、そいば辿って行け」と言いました。

娘さんは、ずうっと辿って行くと、奥山に着き、

そこには大きな岩があったのです。

そこからグダグダグダ、と話し声が聞こえてきた。

親蛇が息子の蛇に、

「わが、夜遊びばっかいすっけんがあ【夜遊びばかりするから】、

針ば胸に抜かるっとたい。わりゃ、その女から命とらるっとたい」

と、言っていました。

すると、息子の蛇が、

「よかもん【いいよ】。俺ゃあもう、娘の腹の中にゃあ、

三百とか子ば産みつけとっけん、そいで敵(かたぎ)ばとっ」と言ってました。

親蛇が息子の蛇に

「人間は、とにかくあの、人間ちゅう人間は、頭が良うーしてねぇ、

何でん気が利いとっけん、お前がそいだけの子ば産みつけたっちゃばい

【産みつけてもね】、三月の節供(せっく)に三百下(くだ)っ。

そいから、また五月の節供になんぼ下っ。

そいぎそりゃあ【それでそれは】、どがんして下っかちいうぎぃ、

盥(たらい)の中に水ば入れとけばなあ、そこからトロトロと、

蛇が下ってしまうてぇ。

そいで、七月の何日とかになあ、ちょうど千匹ばかいの子は、

下ってしまうけん、

お前、敵はとられる」と言いました。

だから、節供に桃酒をいただくようになったということですね。

昔むくれて、今まあっきゃ【これで終わり】。

[大成 一〇一A 蛇聟入環巻型]

(出典 嬉野の民話 P58)

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