嬉野町下不動 中村ハノさん(明31生)

 むかし、むかし。

爺やんと婆(おんば)とおいないったいば、

猿どんと蟹(がね)どんと来(こ)らすちゅうもん。

そうして、猿どんの、あぎゃんと、

「餅搗こう」てぇ。

「米ン穂ば拾(ひる)うて来い」てぇ、言わす。

拾うやあ行たてぇ。

そうして、拾うて来らしたぎぃ、蟹どんの、

「餅ば搗こうでぇ」ちて、搗かしたところが、

餅のむえたぎぃ、猿のひん握ってぇ、あの、木の上さいひゃん上ったちゅうてぇ。

そして下から、蟹どんの、

「俺も半分(はんちん)食わせんかん」ちばあ。

「ひとつ上がって来(け)ぇ。上って来ぇ」ち、言わすですもん。

「いっちょ、上がりゃえんけん、食わせんかん」てぇ、言わしたいばあ、

「家(うち)の爺さん達ゃあ、昔ゃあ、あの、木の上ぇ、枯れ枝かけて食うぎうまか」

ち言(ゆ)うて、食(き)いよらしたてぇ。

そいぎぃ、猿どん騙されてぇ、それぇ、枯れ枝かけてぇ、

「ポテェー」って、餅のかっかえたもんじゃっけん、

「おろっー」と言うて、蟹(がに)が拾(ひる)うては穴さにゃあ入ったち言うてぇ。

猿どんの、

「俺も、やってくいろ」てぇ、言わしたいばあ。

「入って来ぇ。入って来ぇ」て、言わしたあ。

そいぎぃ、

「尻(しい)っから入ろうかのう。頭から入ろうかのう」と、言わしたてぇ。

「尻(しっ)から入(ひゃ)あんしゃい」ち言うてぇ。

そいぎぃ、尻から入ろうでしたいばあ、

「キリッ」って、ねずうだてぇ。

そいぎぃ、

「毛、くるっけん放せぇ。毛、くるっけん放せぇ」てぇ、猿どんの。

そいぎば、

「あいば放そうじゃっかあ」ち、放してぇ。

そいぎぃ、猿ン尻ゃあ真(まあ)っ赤(きゃ)あてぇ。

そいば、猿どんのくいらしたてぇ。

猿ン尻ゃ真っ赤あてぇ。

そいばあっきゃあ【それでおしまい】。

 

(出典 嬉野の民話 P30)

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