鳥栖市幸津町  豊増タカさん(明35生)

田舎に、お爺さんと婆(ばば)さんと、

少しばかりの田圃ば作って生活していきよったって。

そしたらね、山のことじゃけん、狸がズッと出て来って。

そして、田圃ば、お爺さんと婆さんとで耕やしよるとさい、

その狸が出て来てね、

「爺と婆と田打つは、左(ひいだり)ぎいにゃヨロヨロ、

右(みいぎい)ぎいにゃデカンショ」

憎じいがくるげな、そいけんがね、お爺さんが、

「こん畜生(ちくしょ)」って、追うけん、すぐ逃ぐるげな。

翌日もまた、行きなっと、狸が来て、前んごと言うって、

「爺と婆と田打つは、左(ひいだり)ぎいにゃデッカンショ、

右(みいぎい)ぎいにゃヨロヨロ」

そしたけんね、三日目にとうとう狸ば捕まえて、

そして家(うち)さに持って帰って、天井から綱で吊るしてね、

狸汁にして食べるって楽しゅうであったらしいたい。

そしたところが、お爺さんが山に行っとる間に、

婆(ばば)さんにね、

「助けてくれ」って、狸がすがるげなたいね。

「婆(ばあ)ちゃん、どうでんこうでん助けてくれ」って。

そいけん、

「お爺さんが狸汁するって楽しゅうどるけん、助けてやらん」

って、言うばってんね、

「助けてくれ」って、言うけん、縄を解いたって。

そしたら、その狸が、婆ちゃんば殺して。

そして、婆ちゃんを狸汁にして、お爺さんが

山から帰って来なさっとば、待っとったって。

「今日は、もう狸汁が美味(おい)しゅうして食べられるじゃろ」

って、お爺さんは楽しうで帰って来て、

熱々(あつあつ)と狸汁をしてあるもんじゃけん、

「美味(おい)しい。美味しい」ちゅうて、

お爺さんな食べたって。

そして、大概、お爺さんが腹いっぱい食べて、

「ああ、美味しかった」って、

言いよるところに、狸が出て来てね、

「爺が、婆(ばば)食うた」って、言うて逃げたって、聞きよりました。

「爺が婆食うた」って、言うけんおかしい思ったら、

骨ばっかりになして、床(ゆか)の下に埋めとった。

(西南大の資料)

[三二A 勝々山]

(出典 鳥栖の口承文芸 P45)

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