鳥栖市古賀町 原 忠雄さん(明44生)

 むかし。

こん村(むり)ゃあ、伊助どんと与八どんの年寄りが、

隣同士で住んじござったげな。

伊助どんのこすたんでぇ意地のかったげな。

まいっちょん与八どんの正直者(もん)じゃったげなたい。

ちょうど秋の日暮れ時、畑ん仕事ばしもうて、

伊助どんが腹減らーち、家さい戻っち来ござったりゃ、

村(むら)ん入り口で子供どんが、四、五人よって、

ガヤガヤ騒(さーや)どるげな。

通りかかって、何事(にゃあごっ)ちよっじゃろうかと見たりゃ、

小(こうま)かぐうずば捕まえち、

皆(みんな)してこなしよったげな。

それば見て伊助どんな、

「そがな小(こま)かぐうずば捕まえたっちゃ、

一文がつもならんじゃ。足でびっしゃげ」

ち言(ゅ)うて、行かしたげな。

子供どま、

「びっしゃげげな」ち言(い)うて、足の先でぐうずば、

あっちつっこくりこっちつっこくり遊(あす)ん物(もん)にしよったげな。

そけぇ、与八どんが通り合わせたげな。子供のそりば見て、

「お前どま、そがーん小(こま)かぐうずばこにゃあちゃでけん、

助けちやらんない。

そん代わり俺(おり)が拾(ひる)うちきた椎の実ば、

ちかーっとお前どんにやろーだい」

与八爺さんはぐうずば子供から貰(もろ)うて、

横んにきの川(かや)あ、放(はに)ゃあちやらしたげなたい。

そん時も晦日になっちしもうた。

与八爺さんの家にゃあ、婆(ばば)しゃんが病みちいて

一文の銭もなかことなっとったけ。

明日(あした)が正月ちゅうばって、

粟一握りもなかごとなっとったげな。

日の暮れち、与八爺さんが

村ん入り口に川んにき来て、独り言いうたげな。

「今年ゃ、何(なん)で年ゃとろうか」ち、与八どんが思わず、

そういう独り言いうて、通りがかったげなたい。

ところが、粟でしょ、米でしょ、と言う風に声がしたみたげな。

こりゃあ、奇妙なことばい。誰もおらんとけぇ、

妙なこつにゃあ、思うて。また与八爺さんは、

もう一遍言うちみれと思うて、

「今年ゃ、何で年ゃとろうか」言わしゃったげなりゃあ、

橋の下んにきから、

「粟でしょ、米でしょ」今度少しはっきりした声で、

声がするげなけん、橋の下ば覗(のじ)いて見らしたげなりゃ、

小(ちーん)かぐうずが、そぎゃなふうに言っとったつげな。

そして、ぐうずが言うことにゃ、

「お爺しゃん。私ば一晩、爺しゃんの家に連れて行たちくれんな」

ち言(い)うたげな。与八どんな、

「お前(まや)あ、この川ん中がいちばんよかとこばい。

丘に上がったなら、また、こなさるるけ、

何遍、言うち聞かするかどうか、わからんばって、

ここん川ん中がいちばんよかばい」ち言うても、

ぐうずはなかなか聞かじゃったげな。与八爺さんも、

「そんなら」ち言(ゅ)うて、

ぐうずば家(うち)に連れて帰ちやったげな。

家に帰ってぐうずは、お爺しゃんにこんなことを言うた。

「私を臼の中に入れちくれんな。

そして爺しゃんが、橋の上で言よんなさったごつ、

『今年ゃ、何で年ゃとろうか』と言うかけ声を三遍してくれんな」

ち、ぐうずが頼んだげなたい。与八どんな、

「お前が気のすむことなら、そぎゃんせじゃこて」

ち言うて、ぐうずば臼の中(なき)ゃあ入れて、

「今年ゃ、何で年ゃとろうか」ち言うことば、

三遍言わっしゃったげな。

そしたらぐうずが、ジャランジャランジャランと音ばさせて、

口から銭(ぜん)ば出(じ)ゃあたげなたい。

そぎゃん風にして、三遍やったら臼の中ゃあ、

いっぴゃあ銭が溜まったげな。

ぐうずが言うことにゃ、

「ああ、お爺しゃん。これでよかった」ち。

「達者でおっちくれんな」ち言(ゅ)うて、川さん戻ったげな。

正直者(もん)の与八爺さんは、

「こりゃーあ、ほんによか正月どんができたばい」

ち、嬉しゃしよらしたげな。

正月どんの朝、こすたんな伊助どんが、

「隣の与八どんが、何(なーん)も持たでな年越しばしたが、

どぎゃん面(つら)しとっじゃろうかーあ」と、

与八どんの家ん中ば覗(のじ)いたげな。

そうしたら、ごうーふんご馳走(つう)ば造っちゃるもんなけ、

与八どんがどぎゃんして銭(ぜん)ば儲けたじゃれ、

こっそらーと与八どんに聞いたげな。

与八どんな、夜(よん)べのぐうずの話ばして聞かせて、

「秋ごろ子供どめ、悪さされて死にかけたつば、

助けち川に放(はに)ゃあたけ、ぐうずが恩返しばしたっじゃろう。

生き物(もん)なこなーあちゃでけんない」言うち、聞かせたげな。

伊助どんの、与八爺さんからその話聞いて、

「はあーら。そぎゃん儲けごとなら、俺もいっちょ、

それば真似してやっちみゅう」いうところで、

もう早速、その村はずれの川の所に行たて、ぐうずば捕まえてきて。

そして、臼の中に入れて、

「今年ゃ、何で年ゃとろうか」と、

与八爺さんから聞いたようなかけ声をかけた。

ところが、ぐうずの奴はジャランジャランどころか、

ビリッビリッと糞を出して。今度目はよかろうと思うて、

「今年ゃ、何で年ゃとろうか」ち、また言うたら、

前よりも低うビリッビリッと、糞を出してしもうた。

「こらーあ、騙された。こぎゃな汚かぐうずはもう、

ほんなこてつぶしてしまわにゃでけん」ち言(い)うて、

なで杵持ってきて、臼の中でヒシャビシャに搗いて、

そして、自分の家(うち)のくどの中(なき)ゃあ、

そいばくべて燃やしてしもうた。

与八爺さんは、伊助どんな

どぎゃなことばしよっじゃろうかと思うて、

こそーっと行ったりゃ、ぐうずはおらん。

伊助さんはカンカンになって怒った。

「どぎゃんしたかい」ち言(ゅ)うたら、

「お前(まえ)は、俺(おれ)、すらごとば教えた。

お前(まい)のごと言うたら、金どころか、銭(ぜん)どころか、

糞ばビリビリ出したけん、

もう腹きゃあてくどん中(なき)ゃあくべちょっ」

そりから、与八爺さんは正直者(もん)で、

「そんなら、くどん灰ばいっちょくれんかい」ち。

「ぐうずばここで焼けとったなら、灰ばくれんかい。

こりゃあ、俺(おれ)には恩人じゃっけん、灰ば貰うていって、

俺(おり)が、立派いに始末ばするけん、くれんない」

ち言(ゅ)うて、灰ば貰うていって。

そうして翌日、自分の畑ん所(とこ)に、

「こりゃもう、俺(おい)を助けてくれたぐうずの灰じゃっけん」

ち言(ゅ)うて、撒(ま)いたところが、

ちょうど冬の最中(さなか)に枯れ木に、その灰のかかった所が、

きれいな花になってしもうた。

ちょうーど、そこの領主の殿さんが通りかかって、

「ありゃ、いったい何事か。冬に花咲かせるのは何事か」

ち言(い)うことで、与八爺さんの所に家来が来て尋ねたから、

「こうこうしたわけでございます」

「はーあ。やっぱりお前(まい)は、かね日頃、

あの、正直をしていろんな哀れなものを、

えぇ、小さいものを哀れんできたから、その甲斐があったろう」

ち言(い)うて、

殿様がお褒めの言葉といっしょに品物をたくさん貰った。

こんな隣の欲張り爺さんがまた、

「こりゃーあ。あれがすることば、俺(おれ)がでけんことなか」

ち、残いの灰(ひゃ)あばもう、くどん灰あば、

いっぴゃあかきたてて、今度あ、殿さんな、

何時(いつ)来らっしゃるじゃろうかと思うて、

あの、熱中しとったところが、

「明日(あした)、来るばい」と言う風なことになったので、

今度、殿さんがもう、立ち寄らんてちゃ、

いちばん目につきやすい側に行って撒いてやれと思って、

待ち構えとった。

殿さんの駕籠が、道を静かに来たので、

伊助どんが、その灰を手に掴んでパーッと、投げ上げた。

ちょうど駕籠が通りかかった正面に振りかかったから、

駕籠の中の殿さんは、目やら口やら灰だらけになって、

とにかく伊助どんな花が咲くと思うとったところが、

花は咲かずに殿さんの目や鼻に灰が入ってしもうて、

ごほん、殿さんからおごれれた、言うようなお話。

そぎゃしこ。

(出典 鳥栖の口承文芸 P121)

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