鳥栖市古賀町 原 忠雄さん（明44生）
お猿さんと蟹が、川で遊んどったところが、
大きな握り飯と柿の種が、流れてきたと。
そいで蟹は大きい握り飯を拾って、
お猿さんは柿の実を拾った。
そいで食いしん坊のお猿は、
どうしてもそのおにぎりが欲しいから、
とにかく蟹さんに、
「これば換えてくれんか」と、蟹も欲張って、
「そりゃ、このお握りがいい」と、言ったところが、
お猿の猿智恵と言いますかね、
「これは自分のうちへ持って帰って植えると
すぐ大きな木になって実が生るばい」
とうとう、蟹は人がよいから騙されて、
握り飯と柿の種とを換えた。
それで、蟹はその柿の種を
自分のうちに持って帰って植えたと。
そして植えてもう早く芽が出たいので、
「早く芽が出れよ。
出らんげにゃ根から葉から挟み切ってしまうじょ」
と、こう言うようなことを念じよると、
パアッと芽が出てきた。
それから芽が出てきたから今度は、
「早(はよ)、太なれよ。
太らんげにゃ根から葉から挟み切ってしまうぞ」
と、こう言うことを念じると、ズウッと大きい木になった。
大きい木になったから、今度は、
「早く実が生れよ。
生らんげにゃ根から葉から挟み切ってしまうぞ」
と、言うたところが、大きな柿の粒かこう生ってしもろた。
そいで、今度は熟(じゅく)らさにゃいかんから、
「早(はよ)、熟れ熟れよ。
熟れんげにゃ根から葉から挟み切ってしまうぞ」
と、こう言うことを何回か言いよると、もう真赤に柿が実った。
ところが残念なことにには、
蟹は木に登れないから、お猿さんに、
「さあ、お前の柿の種が、こんな具合にいい実が生ったから、
ひとつ登って俺に取ってくれんか」と、
よし来たと言うところで、
猿はスルスルと柿の木に登って、意地悪ですから、
いい柿は自分が取っちゃムシャムシャ食うて、蟹には、
その青い柿しか投げてくれん。
とうとうその、全部そうやって猿にまた食われてしもうた。
そいで蟹は所詮泡を噴くのがあれですから、ブツブツ言いながら、
自分の穴に入ってしもうたと。
そいで猿は満腹になって、しばらくして、また、蟹と一緒に、
蟹の馬鹿を何とか使うて
もうひとつ何か遊びことをしようと思いながら
蟹の穴に行ったところが、
「もうお前は本当に、人ばかり騙して自分ばかりいいことを
するから、もう遊ばん」と。そいけん、
「遊ばんならよか。そんならお前は、穴ん中から出ちくるなら、
俺が穴の前で、糞たれかくるばい」と言うて、
お尻を穴の前に出した。
それで、正直もんの蟹さんも、とうとう怒って、
お尻をシッカリ挟そうだっち。
さあ、猿はどうもこうもないから、
「毛くるるけ、離せ」と一生懸命、そこで鳴き叫んだと。
「そんなら毛ばくるるか」と。
「はい、毛くるるけ離してください」
とうとうそのお尻の毛をやったから、
蟹の挟みのここには毛が生えた。
そいで毛がやったもんだけん、
今でもお猿の尻は毛がなくて真っ赤にしとると。
(西南大の資料)
［二四 猿蟹柿合戦（cf.AT九）］
（出典 鳥栖の口承文芸 P33）
