鳥栖市田代新町 日吉佐一郎さん(明29生)

 猿と蟹とおって、お猿さんは

柿を食うちしもうて柿の種を持っとったち、

蟹の奴は握り飯ば拾うとったち。

そうしたところが、猿が欲ぼうじゃけな。

ははあ。

蟹があれが握り飯を持っとるが、

あいつをいちょう欲しいもんな、

と思うたげなばってんが、蟹がくれんち。

そいから猿が、

「蟹どん」ち。

「何かい」ちゅうと、

「お前の握り飯ばこの柿の種と換えてくれ」ち。

「柿の種ば食わずばするかい」ち。

「ばってん、こん柿の種は植えとくと芽が出て、

今に柿が生ったげな。たくさん柿の生るけんで、

そいが楽しみでこかばい」ち。

「握り飯しゃあ、食うちもたら後がなかばい」

ちゅうち、

「そりゃそうだ」

それから、そのう蟹が騙されてな、握り飯ばたって、

柿の種ば蟹が貰うとろうち、そして植えてち。

「早く芽の出れ。芽の出でらなあ、鋏み切るぞ」ち、

蟹が言うた時、柿の種が芽を出てズンズン太ってき、

「早(はよ)大きくなれ。芽を出せ、芽を出せ」ち、したなら、

「早実よなれ、赤くなれ」ちゅうから、

「ならんなら鋏み切ってしまうじゃ」ち、

蟹が言うきな、ズンズン太っつろうち。

ところが、柿がなっつろうち。

ところが、蟹という奴は木に登りきらんきな。

そいで、こりゃしもうた。折角柿が生ったが、

あの柿をどうしてちぎろうか、

梯子でん掛けな蟹は登りきらんち。

そこで猿さんに、

「猿どんくらい。お前が柿の種ばくてたちば植えたら、

こぎゃん大きうなって、柿が生ったが、

俺(おり)ゃちぎりきらにきに、

お前ちぎってくれい」ちゅうち、

「よか、ほんはら俺がちぎっちゃろう」ちゅうて、

コソコソッコソ登ったげなああた。

主(ぬし)ばっかり食うち、いっちょん柿ば落さんち。

「俺もいちょくれ、落してくれ」ちゅうたげな、

渋柿どん落したげな。

「こん畜生、渋柿どん落たちから、

うまかたどん主が食うちから、何ちゅうことか」

「よしよし、何かしてちゃろう。

柿ば落さなあいけんばい」ちゅうて。

「猿どん、猿どん」

「何か」ちゅうて、

「俺がおもしろいことば、教えようか」ち、猿が油断したら

「どぎゃんこつか」ち、

「袋にいっぱいちぎって枝に下げれ」ち。

そうして、猿ちゅう奴は、

こう揺っとが好きでっちょうが。

そっでそのう、下げて、

「一丁目の銀杏の木は一丁サッサで揺れ」ち言うたき、

一生懸命揺すりよっつろう。

枝がポキーと折れて、柿がポテーと落ちたら、

その息で、蟹がな我が穴ん中さ

ドンドンかすくりくうち柿ば。

そいから猿が降りて来てから、

「こら、蟹どん蟹どん、折角俺がちぎったっば、

落てたけんで、我がひとりど我が物になる。

我がかすくり食うたごたったが、ちいたやらんか」

「うんにゃやらん。我が上で食うとううじゃなか。

そいでんおちたつは俺がん、

だいたい木は俺が植えとったじゃけん」ち。

「こん畜生。そぎゃんこというなら、

こん畜生、糞垂れ込むばん」ち。

「垂るうなら垂れたみい」ち、蟹が言うたけんで、

猿がジイッと穴の口ば尻をもったち。

そいから蟹がチョコッと出て来て、

グウーとはしょったげな、猿の尻ばな。

そうしたところが猿が痛いもんじゃけ、

「あ、痛い痛い痛い、放せ放せ」

「放さん」

「そんなら毛くるうけ放せ、毛くるうけ放せ」

ち、猿が言うたち、

「よし、毛くるうなら放す」ちゅうて、

毛くるうたもんじゃけ、猿の尻の毛ばみんなむしっちもうた。

その尻の毛をむしったもんじゃけ、

猿の尻は真きゃあに赤こうなって、

そして毛はどうしたかちゅうと、

毛は蟹の鋏ぐしのここに生やしてしもうたげな。

そいで今にも蟹の鋏ぐしのここには

猿の毛が生えているちゅう話たい。

(西南大の資料)

[二四 猿蟹柿合戦(cf.AT九C)]

(出典 鳥栖の口承文芸 P38)

標準語版 TOPへ