鳥栖市河内町貝方 徳渕鼎さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

ある男が牛に乗って、山へ草刈りに行っていた。

その途中、小さな蛇が竹を割ったものに、尻尾を、はさみ込まれて木にぶら下げられていた。

その男は、小さな蛇が、かわいそうになって、牛からおりて竹を外してやった。

小さな蛇は、喜んでうれしそうに逃げて行った。

それから、男は草刈りをした。

草を牛に背負わせて家へ戻った。

男は夕方から気分が悪くなった。

その晩、男は高い熱にうなされた。

そこへ、きれいな女が現れて、

「私は、大蛇であるが、小さい蛇になって歩(さる)きよったところが、

木にぶら下げられ、命をなくすところば、あなたから助けてもろうて、

本当にありがとうございました。今晩は、そのお礼に参りました」と、男に言った。

そして、

「明日、あなたの家の側に稲荷さんを祭ってあるところに、

『具合が悪い』ち言うて、参りに来なさる人がある。その人が

『お昼ご飯を食べさせてくれんか』て言うて、あなたの家に寄って、お昼ご飯を食べなさる。

その人に、この薬を飲ませてやってみてくれ」と男に言った。

翌朝、男は少し気分も良くなったので、起きてみたら、

枕元に草のような物に包んだ薬があったと。

男は昨夜、夢うつつに聞いたことを思い出した。

昼頃になってから稲荷さんにも参りに来た人が、

「お昼ご飯を食べさせてくれ」と言って、男の家に立ち寄った。

その人と男は、色々と世間話をしているうちに、

「どぎゃんあんのかい【どんなにあるのか】?」と言うことになった末、

「そういう風にあるなら、この薬を飲んではどうか?」と男は言った。

その人は、

「それじゃあ、飲ませてもらいましょう」と男に言った。

それからその人は、

「お金はいくら、いるか?」と言った。

男は、

「お金は、もう良か」と、その人に言った。

しかし、その人は気持ちばかりのお金を置いて行った。

そして、自分の家に戻り、その薬を飲んだら病気はすぐに良く治った。

そのことが近所に広がり、毎日のように薬を買いにやってくるようになった。

その女は薬を毎晩届けてくれるようになった。

男は、薄暗くなってから

「雨の降ろうごたるけんで」と、ひとり言を言いながら掃除をしていた。

すると、例の女が薬を持って来てくれた。

そして、男に

「夫婦の約束をしてくれ」と女の方から言った。

男は、大蛇が女に化けていることを知っていたので、恐ろしくなった。

男は返答もしないで、戸をピターンと閉めてしまった。

それからは、女は薬を持って来なくなった。

男は、だんだん貧乏になってしまったと言うことげな。

(出典 佐賀の民話第二集 P24)

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