武雄市西川登矢筈 石橋ワサさん(明36生)

 むかぁし、お爺さんが山に行きおんさったぎぃ、

大抵騙す狸がおったもようですたいなぁ。

そいぎぃ、もう、こん畜生と思うとっばってん、

また行たても騙さるっ、そいけん、婆さんに、

「今日は、俺(おい)が狸ば連れてくるけん、

待っとれ」ちゅうて、山に行きなったて。

そうしたら、やっぱり、

狸が女に化けて出て来んもんですけん、

「今日は、家(うち)ぃ来い」て言うたぎ、

後ば付いてきたて。

そいぎぃ、婆さんが、囲炉裏(いろり)

の火ば焚いて、それにあたって待っておいなったて。

それで、お爺さんな、狸に、

「狸、お前は、何が一番えすかかぁ【怖いか】」て、

そいぎぃ、狸が、

「犬が一番、恐(えす)かぁ」て言いんさったて。

そいぎぃ、

「お爺さん、お前は何が一番えすかか」て

「俺(おりゃ)ぁ、金がえすかたい」て言うて、

お婆さんに、

「さぁ、戸ば閉めろ」て閉めさせて、

そいぎぃ、犬を中に入れたぎぃ、

犬が吠えて、家の中を回っちゅうもんたぁ。

そいぎぃ、狸が恐ろししゃぁ、逃げ先ぁ無うして、

仏さんのお位牌さんになって、

ちょきっと座っとたてったんたぁ。

そいぎぃ、犬は、どこにおろうかねぇと思うて、

狸は逃げたて。

そいから、お爺さんな、

「そいなら、寝(に)ゅうだい」て言うて、

爺さんと婆(うんば)さんと寝とらしたぎぃ、狸が、

「今度は俺がいじめてくるっ」ちゅうて、

天井からお金を、

シュルシュルシュルって落てぇたてなたぁ。

そいぎぃ、お爺さんな、

「あら、お金じゃ、えすか(恐い)、

えすか。お金の降ってきよっ。

あら、えすか(恐い)、えすか」

て言わすもんじゃい、

また、ゆんにゅう【沢山】お金が落ちぇたちゅう

話たんたぁ

そいばぁっかい【それでおしまい】

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p120)

標準語版 TOPへ