武雄市西川登神六 井出安次さん(明37生)

 むかし、ある人が、金をかせいでこようと思うて、

江戸に行ったけれども、働くところがないので、

芝居をしよったそうです。

そうしよったら、急に自分の家の親が病気になった

という知らせがきたので、

帰らなければならないことになったそうです。

それで、帰りよったところが、

帰る途中に山があって、その山を越さないと、

自分の家には帰れないそうです。

その人が、その山の麓まで行ったところで、

麓の人に、

「そん山には、姥がみがおるから、

晩は越さん方がいい」

て言われたけれども、その人は、

「いんにゃぁ、親の病気じゃっけん、晩でん行く」

ちゅうて、一人でその山に登って行ったそうです。

そうして、山を登っていたところが、

やっぱり、姥がみが出てきて、

「ただでは、ここは通さん。

何かやっぎにゃぁ(何か芸をすると)、通す」

て言われたので、

「よーし、そいぎぃ、俺(おい)も『狸九』

(たぬきゅう)て言われた者(もん)じゃから、

今から女に化ける」て言うたそうです。

そうして、いつも芝居でやっていたことなので、

蔓(かつら)を被って女に化けたそうです。

そうしたら、見事に化けたので、

「通ってよか」て言うことになったそうです。

そうして、通る時に、その人が、

「お前は、何が一番恐ろしいか」て、

姥がみに聞いたら、姥がみが、

「俺(おりゃ)ぁ、キセルのヤニが一番嫌いじゃ」

と言うたそうです。

そうしたら、今度は、姥がみが、

「お前は、何が一番恐ろしか」て、聞くて。

それで、その人は、ちょっと考えて

「私(あたし)ぁ、銭が一番嫌い。

銭持っとん者な、どがんこってんすっけんが、

銭が一番嫌いじゃ」

て答えたそうです。

そうして、別れて、山を下いよっ途中に

村があったので、そこの村の人を集めて、

「この山の上の姥がみは、

何が一番好かんかちゅうぎにゃぁ

(嫌いかというと)、キセルのヤニが

一番嫌いじゃから、キセルのヤニをうんにゅう

(沢山)寄せて、そして、征伐にいけばよか」

ちゅうて、村の者を姥がみ退治にやらして、

自分は家に帰らしたそうです。

そうしたら、村の人は、キセルのヤニを沢山集めて、

その姥がみのいるところに持って行ったので、

姥がみは、ほうほうのていで逃げたそうです。

それで、姥がみが、

「あん畜生、狸九が教えたけんがこぎゃんことに

なった(このようなことになった)。

仕返しせんば(仕返しをしないと)」

ちゅうて、今度ぁ、金を沢山持って行って、

その人の家に放り込んだそうです。

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p121)

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