武雄市西川登神六　井出安次さん（明37生）

　むかし、田舎に二人の男がおったそうです。

ある時、

「伊勢詣りに行こう」

て言うて、伊勢詣りに行ったそうです。

そうして、ずーっと行きよらしたところが、

小さい子供の手ば引いて行きよっところに

出会うたそうです。

それで、あぁ、子供ば(子供を)

連れて行きよんさんなぁ、て思うて見よったら、

その人が、

「これ、小倅（こせがれ）」

ち言いなったそうです。

子供のことを倅（せがれ）て言いますから。

そうしたら、はぁー、こーまか(小さい)ことを、

『小倅』て言うんじゃなぁ、

て思うて、一人の人が帳面に付けよらしたて。

それから、またボチボチ歩いて行きよったら、

大きなモッコ(縄、蔓（つる）などを網状に編んだ

運搬用具)に石を入れて担いだ人に出会うたそうです。

そうして、

「やりべぇさぁ、やりべぇさぁ」と言って、

二人で担いで行きよらしたそうです。

それで、ありゃぁ、石のことを『やりべぇさぁ』

て言うばいにゃぁ

（言うのだなぁ）、と思うて、また、帳面に付けて、

先を行きよらしたそうです。

そうしたら、今度は、赤く塗ったお椀を

売って歩きよらした人に出会うたそうです。

その人は、

「しゅわん（手腕）、しゅわん（朱椀）」ちゅうて、

売って歩きよいなったので、

「はぁー、赤かことば（赤いことを）、

しゅわん（朱椀）ち言うばいなぁ（言うようだ）」

と思うで、また、帳面に付けよらしたそうです。

それから、また、ドンドン行きないよったら、

もうお伊勢さんの近くに来たそうです。

そうしたら、沢山の人が行き来しているので、

「あのぅ、どこ行きよっですか」て聞きなったら、

「伊勢詣りに行きよっ。じょうぐう【上宮】、

じょうぐう【上宮】」

て言われたて。

それで、

ありゃぁ、上ることを、じょうくう【上宮】

て言うとじゃなたぁ。

そうしたら、下ることは、げくう【下宮】

て言うとやろうねぇ、

て思うて、それも、帳面に付けなったそうです。

そうして、無事、伊勢詣りも済んで、

帰ってきよったら、京都の近くで、お坊さんが、

施餓鬼といって、お布施をもらいに

廻りないよったところに出会うたそうです。

それで、何をしているのか、そこの人に聞いたら、

「あれは、ほうが（奉加）して、

さるき（歩き）よんさっ」

て言われたので、人からもらうことを、

ほうが（奉加）て言うとやろうねぇ、

て思うて、それも帳面に付けなったそうです。

そうこうしているうちに、家に帰り着いたそうです。

そうして、帰ってきて、今度は一生懸命、

仕事をして働きよんさったら、

秋になったそうですもん。

秋になったら、自分の家の前の柿の木の

熟柿【じゅくし】が、赤くなっていたそうです。

それで、その柿の実をとろうと思うて、

その柿の木に登っていったら、

小さい枝に足をかけた時にその枝が折れて、

下に落ちて頭を打って、怪我をしたそうです。

そうしたら、その人が、お医者さんに手紙を書いて、

家の人に持って行かせたそうです。

その手紙が、

「前の柿の木、朱椀しょうしき成り下がり、

それを取ろうと上宮すれば、小倅を踏みかけ、

早や下宮し、やりべぇさぁに頭打ち、

朱椀しょうしき出（い）づること限りなし。

お医者膏薬、一回、ご奉加」

と書いてあったそうです。

それで、お医者さんは、何と書いてあるのか、

よく分からなかったけれど、

膏薬て書いてあったので、

「こりゃぁ、膏薬をくいろ」

と言うことだろうと思って、

膏薬だけやったそうです。

それまで（それで、おしまい）

（出典　佐賀県文化財調査報告書　第71集「～矢筈・神六の民俗～」p132）

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