武雄市西川登神六 井出安次さん（明37生）
八兵衛が嘘ばかり言って、
人ば騙したいしよったもんじゃっけん、
ある時、八兵衛のとこに、
誰【だい】か青年どんが訪ねて行ったそうです。
そうしたところが、八兵衛のとこに行ったら、
火も何も焚いとらんところにですね、
ご飯焚いたばかりのごと、
ブツブツいってるわけですよ。
そうして、まーだガタガタしとるもんじゃから、
「おう、この鍋は何も焚かずに、
もうご飯のできとっばい」
ちゅうたごたっ風に言うたそうですよ。
そいぎ、八兵衛が、
「こりゃぁ、焚かずの鍋じゃっけん、
こぎゃんして（このようにして）、
もう何も焚かんでも、
お米ば洗うて入れてしゃがおっぎ、でくっ」
ち言うたて。
本当は、ご飯ができたとを
そのまま持ってきて置いといなっただけて。
そういうことを言うて、
八兵衛がまた騙すわけですねぇ。
そいぎ、ほんなことじゃろうと思うて、
「俺ぇ（おれに）、そいば譲ってくいろ」
て言うて、
その人が譲ってもろうて、
家【うち】い持って帰って、
米ば何回洗うて入れても、もうでけんて。
そいけん、
「こりゃぁ、また騙された」て言うて、
騙さるっちゅうことは知っとっても、
そがんしてやっぱい騙されたて。
そいけん、そういう風にあんまい騙すもんじゃい、
今度【こんだ】ぁ青年どんが腹かいてですよ、
八兵衛ばひっ捕まえて、
昔は、米俵てあいよったですね、
あれん中に入れてですねぇ、
八兵衛をひっ捕まえて、そして、
外から、こう括って、
そうして、
こう、二人で担【いな】うごとしてですねぇ
「こん畜生、よーし、
どこさいじゃい（どこかに）捨てや行こう」
て言うて、二人で、
「よいさ、よいさ」で担うて行きよったそうですよ。
そうして、
「もう大抵来たもん（相当遠くにきた）。
もう、そこんにきの海ぃ（そこら辺の海に）、
捨ちゅうかぁ（捨てようか）」
て言うて言いよったぎ、
「もうすぐそこけん（そこだから）、ここで、
いっとき（少し）お茶でも飲んで行こう」ち言うて、
茶店に寄って、お茶どん飲んで、
お茶菓子どん食いよったそうです。
そうしたところが、
座頭さん（盲人の琵琶法師）が、
杖でこうこうして来よらしたいば、
ガタッと、それぇ行き当たったわけですよ。
そうしたぎぃ、中におる八兵衛が、
「こん畜生、誰【だい】がぶつかったか。
俺【おい】が、
こけぇ居っところりぇ（ここに居るのに）」
ち言うたそうです。
「あぁ、そりゃぁどうもすみません。
目が見えんもんじゃいけん、
誰【だい】がどけぇ（何処に）
おるか分からじぃ（分からなくて）、
こがんして（このように）突き当たってしもうた。
どうも、ごめんなさい」
ち言いなったそうです。
そいぎ、
「目の悪かないば、早う悪かと言え。
俺【おい】がよかごと教えたとこりぇぇ。
俺【おい】も目の悪かけん、
ここで目の養生（目の治療）しよっ」
ちゅうて、やかましぅ言うたちゅう。
そいぎ、その座頭さんが、
「そがんやって（そのようにして）、
目の治ろうか」て、
「うぅん（いや）、
ここの中にいっとき（少しの間）入っとっぎにゃぁ、
じき（すぐに）見ゆっごとなっ。
わい（お前）も目の悪かない、
入らんこう（入ったらどうだ）」
て言うたら、
「入ってもよかれどん（入ってもいいけど）、
お前さん、まぁだ、
養生の済まむみゃぁもん（治療の済まないだろう）。
まいっとき（もう少し）、
お前さんも入っとらんといかんやろうもん」て、
「いんにゃぁ（いいや）、
もう、俺【おりゃ】ぁ、大抵（相当）入っとっけん、
もうよかろう。縄ばほどいて（縄を解いて）くいろ。
もう、今から出（どっ）けん」
て言うて、
その座頭さんに縄ば解【ほどか】せてですね、
そうして、我がひっと出て、
今度は、座頭さんをそいが中に入れてぇ、
また、外から、元んごと縛って【くびって】、
そうして、我が、サーっとどこさいじゃい
走って逃げてしもうたそうですよ。
そいぎぃ、青年どんがもう、
お茶どん飲んだあがいじゃもんじゃいけん、
勢いづけて、
「さぁ、行こう」て言うたら、
「おらぁ（俺は）、折角
目の養生しよっとこりぇ（しているところに）、
何処さい連れていくかぁ」ち。
そいぎ、
「何か、こん畜生、八兵衛がまた、
おどんたち（俺達）ば騙そうで思うて、言いよっ」
て言うて、
二人でまた背負う【いのう】て行って、
丁度よかとこの崖の上ぃ行たて、
座頭さんの入っとっとば、
ポーンと海の中に捨ててしもうたて。
そうして、二、三日してから、
また、八兵衛が魚売りになってきたちゅう。
「魚はよかったかい」て言うて、来たて。
そいけん、八兵衛のごたっにゃぁて思うて、
「お前、八兵衛じゃなかかい（八兵衛ではないか）」
て言うたら、
「俺【おい】は八兵衛じゃ。お前どんが（お前達が）、
あんまい（あまり）
浅かとけぇ（浅い所に）捨つっけん、
鰯とか何とかしかおらんじゃった。
もっと深かとけぇ捨つっぎにゃぁ、
まーだよか（良い）
魚のあったとこりぇ（あったのに）」
て言うたて。
まぁ、そういうことですな。
（出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「～矢筈・神六の民俗～」p130）
