武雄市西川登神六 井出安次さん(明37生)

 座頭さんがですね、歳の暮れにですよ、

ずーっと、田舎ば一軒一軒廻いよったそうです。

そうして、廻いよったとが、

こうして山ンごたっなったところで、廻いよって、

日が暮れてしまったて。

そいけん、どうしようかにゃぁ、

どこか行こうかにゃぁ、

て思うて、一軒一軒、

「泊めてくいろ」

ち言うて、廻いよったわけですねぇ。

そして、

「今夜、泊まっとこのなかけん、泊めてくいろ」

て言うて、

言いよらしたぎぃ、

「そがん、歳の暮れに忙しかとけぇ、

泊まっときのあんもんかい。

早い、あっち行けぇ、て言われたそうです。

そいぎぃ、また隣行て、

「今日は、こがんして遅かけん、

どこも行かれんけん、泊まらせてくいろ」

て言いなったて。

そいぎ、

「ううん、よか、よか。家【うち】ぃ泊まってよか。

明日は正月じゃもん、

ゆっくり泊まっていきんしゃい」て言われて、

そこの爺さんと婆さんが良かったいどんなたぁ。

そがん言うて、もてなして、

「さあ、こっち来て歳の酒どん飲め」

て言うて、飲ませたい、

そいから、ご馳走やったいして、

いろいろな話をしたて。

そいから、

「一つ、1回でいいから琵琶唄でも歌え」

ちゅうごたっ風で、

おもしろく、その晩は過ごしたそうです。

そうして、明ければお正月もんじゃいけん、

そいぎぃ、そこの爺さんは遅かったけど、

お婆さんは早う起きて、準備をして、

そうして、朝飯の支度ができたもんじゃいけん、

「さぁ、爺さん、どがんしゅうかぁ。

座頭さんな、まーだ寝とんしゃろうかぁ。

起こさじぃよかろうかぁ」

「もう、起こせ。もう、よかくさい。もう起こせ」

そがん言われたので、

「座頭さん、起きござい」

て言うて、起こしに行かれたけど、

いっちょん、返事をせんちゅうもんなたぁ。

「もう、起きてよか。

もう時間も大抵過ぎたごたっけん、

早う、もう起きござい。朝飯どん食おうぜぇ」

ち言うけど、

うんともすんとも返事かなかて。

そいけん、

「爺さん、返事のなかけん、爺さん、行たて、

いっちょ起こしてくいござい」

て、爺さんに言うたぎぃ、

爺さんが行たて、こう寝とっとばゆすって、

「もう起きござい、起きござい」て言うけど、

いっちょん、起きらんちゅうのまい。

そいぎ、その、爺さんが、

布団をこうはがしてみらいたぎぃ、

中には、金のいっぱいあったてぇ。

そいぎ、その人んとこは、

ほんに良か正月ができたとでしょう。

そうしたら、その明けん日は、

明けがけじゃいろう、その話を、

隣の座頭さんを泊めんじゃった人が聞いてですよ、

そいけん、

「俺【おい】も泊むっぎぃよかったぁ。

ほんなこて、我が(自分が)

泊めんて言うたけんが、損したぁ」

ち言うて、爺さんが婆さんにやかましゅう言うし、

婆さんは、爺さんにやかましゅう言うしで、

二人【ふちゃぁ】で喧嘩しよったてぇ。

そうして、

「こんだ(今度)ぁ来た時は、早う泊めろ」

ちゅうごたっ風でですよ、話のできとったらしか。

そがんしとったぎ、いつじゃいろぅ、

また座頭さんが来て、廻ってさるきよんさったて。

そいぎ、

まぁだ、お昼前の、日の高っか時、連れてきて、

泊まっちゅうて言わんとば、

「座頭さん、泊まらんかのう、泊まっぎぃ、

ご馳走して食わすっけん」

ちゅうごたっ風でですよ、言いなったぎ、

「いんにゃぁ、まぁーだ廻っぎにゃぁ、

まーだ時間のあっとじゃっけん、

まぁだ暗うなんまで大抵時間のあっけんが、

まぁいっとき回らんば」

ち言うけん、

「いんにゃぁ、廻っしこはうちからやっけん、

泊まってくいろ」

ち言うて、そうして、

しゃぁん無理に泊まらせたてぇ。

そうして、そのまま寝せて、

その明けの朝になったぎぃ、

今度ぁ、婆さんが、

座頭さんば起こそうでして、爺さんが、

「もう起こせ」ち言うけん、起こしかかったて。

そいて、

「座頭さん、座頭さん、早く起きらんのまい」

て言うけど、

まだじぃーっとしとっけんが、

「座頭さん、金じゃなかのまい、

座頭さん、金じゃなかのまい」

て言いなったて。

そいぎぃ、座頭さんが、

「いんにゃぁ、俺ぁ、金じゃなか。座頭じゃぁ」

て言いなって。

そいから、また一時してから、

「座頭さん、金じゃなかのまい」て言いなんけん。

「いんにゃぁ、俺ぁ座頭。

座頭に、

『金じゃなかのまい、金じゃなかのまい』て、

朝早くからたたき起こされて、

こん畜生、ろくなことはなかった」て言うて、

「昨日は回っとったぎ、

もっと余計【ゆんにゅう】とがすっとば。

その借りまでやれ」て言うて、

そうしてもう、朝早う、

座頭さんは帰ってしもうたて。

そいでばぁっきゃ(それでおしまい)

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p113)

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