武雄市西川登矢筈 石橋ワサさん(明36生)

 むかし、女の人が男のところに、

「俺(おい)は飯を食べんで働くけん、

嫁に貰ってくいろ」て言うて来たて。

そいぎんと、その女が、働く、働く、

食べ物は食べじぃ働くもんじゃっけんが、

妙なことと思うて、その夫がなたぁ、

仕事に出たふいして、窓から見よらしたてぇ。

そいぎぃ、出らした後にご飯ば炊いて食う食う食う、

もう恐ろしゅう、食べるも食べるもんじゃいけん、

そいぎんと、怪しいもんねぇ、て思うて、

旦那さんは帰ってきて、

そうして、嫁さんに言わしたぎにゃぁと、

「こりゃぁ、見られよったばい」

て言うて、蜘蛛(こぶ)になって、

「私に、瓶ばいっちょくいろ」て言うて、

水瓶のあがんとばなたぁ、

そいばかるうて【背負って】、

縄で背中にくくい付けて【結い付けて】

おらいたいば、その蜘蛛(こぶ)が、旦那さんを、

その中に入れて、山さい連れて走ったてったんたぁ。

そいぎんと、蜘蛛(こぶ)は旦那さんを

瓶に入れて行くもんですけん、こりゃぁ、

どこまで連れて行くじゃぁ分からんと思うて、

菖蒲の中ば分けて入ったろうごとした時、

その菖蒲に引っかかったけん、

旦那さんがそいにつかまって上がんさいたて。

そうして、そけぇ隠れさいたて。

そいぎぃ、蜘蛛(こぶ)が、こうして見たぎぃ、

旦那さんがおらんもんじゃい、

あの菖蒲の中に隠れたばい、

我が一番好かん菖蒲の中に隠れたて言うて、

助かったちゅう話。

そがん聞きおりました。

そいばぁっかい【それでおしまい】

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p118)

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