武雄市西川登矢筈 石橋 ワサさん(明36生)
むかし、女のとこに、
男が忍んできよったてなたぁ。
そいが、窓から入ってきおったて聞きおいまいた。
そいぎぃ、その女が
「不思議かねぇ」て言うて。
そいで、身籠ったごとございますなんたぁ
そいぎぃ、その男の着物の裾に針ば付けて、
針ば、こうして裾に刺したちゅう。
そいぎぃ、翌朝、その蛇が、
「今日は、きつい【苦しい】ことさせられた」
て言うて、
帰っていたてぇ。
そいぎ、女が、糸をたどって跡ば付けていたぎんと、
山の岩やさん、行たてぇろうなたぁ。
そいぎぃ、そっと、
ソローっと、こうして聞きおったぎぃ、
「ゆうべは、我がきつい【苦しい】ことされた」
て言いおっ。
そいて、
「今度の節句の桃酒ば飲まんぎよかいどん。
その桃酒ば飲むぎ下ってしまう」
て、言うたていうて。
そいから、女は一番口ぃ、桃酒ば飲ませおったです。
そいばあっかい【それでおしまい】
(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p110)