多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 もう坂道なっとったてっちゃんもん

【なっていたそうな】。

ところが、飛脚も、

もう、かけてごっとい【走っていつも】

手紙ば持って行かんばらんもんだから【

行かなければならないから】、

そいもんもんだから【それだから】、

もうしよったぎにゃあ、

今度(こんだ)あ、

険(けわ)しか山峠かかったてじゃんもん

【山峠にかかったらしい】。

ありゃーあ、

この峠は遠かにゃあと【遠いねぇと】。

そいけん、こいばいっちょ越さんばらんばってん、

【越さなければならないから】と思うて、

こりゃ【これは】登いきろうかにゃあ

【登ることができるだろうかなあ】、

と思(おめ)ぇよったぎにゃあと【思っていたら】、

そのほんな【少し】前の所(とこれ)ぇ、

曲(よんご)い松の木の植わっとったて。

そいぎぃ、その曲い松が、今のその、

「こりゃ、橋にゃならん【にはならない】」

て、言うことで、

「走りゃならんじゃあ」て言う。

そいぎぃ、

「やっぱいかけて行かんかにゃあ

【走って行くしかないなあ】」

て言うて、

飛脚は、その、

どがん山道でん登いよったてったん、て言う話。

[世間話]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P94)

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