多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 福岡方面はですね、博多のあたりは、

どぶ漬けと言いますよね。

あの辺のどぶ漬けはですねぇ、

漆(うるし)塗りですよ。

もう、漆を塗ってあって奇麗です。

ちょうど、あの角樽(つのだる)のようです。

酒屋の角樽みたい。

漆塗ってあってですね。

そして、中は、赤の蓋(ふた)を奇麗にしてあって、

それも醤油と同じです。

いつも、混ぜなければいけないわけですよね。

混ぜないでおくと、

もう味が変わって黴(かび)がして、

虫が出てくるんです。

それだから、今の醤油造りじゃないけれど、

「もう、あの床の所(とけ)ぇ

置(え)ぇとっどぶ漬けは

混ぜんごとせんばいかんよ。

混ずっぎにゃあ、食べられんけん」と、言うと、

憎らしくて、いつも、その若嫁御が行って、

混ぜるらしいです。

すると、

黴も生えないし、ショウウジョウバエも付かずに、

非常によかったという話。

あれは、もう大概、福岡県が多いです、

どぶ漬けなんかは。

魚の鰯(いわし)とか、鰺(あじ)とか、いろいろ、

そういう魚の骨を入れましてねぇ、

そして、糠(ぬか)を入れて、仕込むわけです。

ちょうど、あの、おでんの汁と同じです、

もう何十年、何百年。

福岡でもですね、やっぱり、

二百年から三百年ぐらいあるんじゃないですか。

もう、そういうふうにして、ずうーっと、

貯めておくわけですねぇ。

そうして、そこから娘が嫁になる時は、

必ずその、本(もて)をやるんですよ。

それを引き続いてまた家(うち)で作るわけです。

それを、

やっぱり母がしてくれた先祖の感謝の気持ちで、

今なお、続いてしているらしい。

[世間話]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P93)

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