多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 ずうーとむかし。

河童がおって。

河童なかなか力が強かったらしいもん。

非常にその力が強くて、そうして、よう、

あの、川に人間を引きずい連れて、

そうして川で、よう【よく】昔は、

川で入(ひ)ゃあって死んぎにゃ【死ぬと】、

尻(けつ)ん穴のポーンとほげて【開いて】、

そりゃ河童が、とにかく腹んじごば【腹の内臓を】

取っていち食うとっけんが、

ほげとって言う話を、まあ聞いとったですがね。

ところが、それに付随してその、なかなか河童が

その、自分が力強さを誇っとったらしい。

そうしたぎ今度(こんだ)あ、

「猿は猿で、俺(おい)も河童にゃ

負けんじゃあ【負けないぞ】」と、

言うことで、猿がなたーあ(猿ガネェ)、

「そんない【それなら】俺と

相撲取ってむうじゃっかーあ【取ってみようか】」

と言うて、猿が言うたてっちゃん【言ったそうよ】。

そいぎ河童も、

「よし。そんないば【それなら】俺も取ろうだーあ」

と言うて。

そうして構えて、丘に上がって、かまえてた時に、

猿がその、三度もさんくりゃがやいしたてっちゃん

【ひっくり返ったそうよ】。

そいでさんくりゃがやいしてのまい。

「あはーあ、猿が、あいが力持ちて言うが、

三度もさんくりゃがやいしたけんが、

そいじゃ【それでは】

俺も三回さんくりゃがやいすっくしゃーあ」

て言うて、

その河童がその、三度その、

さんくりゃがやいしたてっちゃん。

そうして取ったぎにゃあ【相撲取ったら】、

やっぱい猿が勝ったて。

そいぎぃ、その猿が勝ったもんだから。

そうして押さえ込んだてっちゃん。

そうしたぎ今度(こんだ)あ、猿の尻(しい)ば、

かぶいちいたてっじゃん【噛みついたそうな】。

そいからその、猿の尻ゃ赤(あこ)うなったて、

言う説もあるわけ。

そいからしたぎなたあ、河童は頭のほげて、

そこに水の溜まっぎ相当力のあったんたあ

【力があるそうな】。

ところがその、水が溜まっとらんぎなたあ

【溜っていないとね】、

力・元気のなかてっちゃん。

そいもんだから、猿がやっぱい、

そいだけ利口かったけん、

さんくりゃがやいして河童の頭の水ば、

その、さかせなんもんだから零れてしまう。

そいもんだから【それだから】、

その力が抜け、そうして猿が勝った。

そいまあっきゃ。

[世間話]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P85)

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