多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 久しかぶりに、その、昔の恋人が、

わが若い時やいよった【自分が若い時やっていた】、

そのシャンス【恋人】女(おなご)ち、

話ゃ聞いとったですが。そのシャンス女が、

その、所(とけ)ぇ行たてしたぎぃ、

「ああ、また、たまたま

久しぶり来ごさった【お見えになった】」

て、言うことで。

そいでまあ、

「家(うち)、今夜一晩泊まっていかんかんたあ

【いきませんか】」

「そいない【それなら】、まあ泊まろう」と、

言うことで、泊まって。

そして暑( ぬっ)か時じゃったとが、

わがどま【自分達】夫婦(みゅーと)

蚊帳(かや)の中で、

寝とっじゃんもん【寝ていた】。

そいぎ今度(こんだ)あ、その、親父さんが、

「一緒に三人いろうけん【蚊帳の中に入ろう】、

お前(まい)、

こけぇお前も一緒に寝んかあ【寝ないか】」て。

「外は蚊の食うけん」と言うて。

「いんにゃあ、良か【いいえ、よい】。

俺(おり)ゃあ、あの、

押入れの長持ちの上、俺ゃあ寝(ぬ)っ」て。

「そいけんが、

あさんどんばっかい【あなた達ばかり】

二人(ふちゃい)寝らい【寝なさい】」

て言うて、

もう無理そがん【そんなに】言うもんだから、

「そいないば」て、言うことで、その、恋人は、

その男は長持ちの上、寝とったちゅう。

そいで、夜さい寝とってから、

「オーイ」て、叫(おら)ぶてっちゃん【らしい】。

長持ちの上から。

「何こうー」て。

「あさんどま、今のう重なっとっじゃーあ」て、

こう言うて、

言うたてじゃんもん【言うたらしいね】。

そいぎぃ、

「『重なっとっ』てぇ、

重なっとらんぼう【重なっていないよ】。

別々寝とっじゃっかーあ【寝ているよ】」て。

「いんにゃあ【違うよ】。

えぇ、長持ちの上からない、

見てみっぎない【見てみると】、

二つこう上、重なっごとしか見えんとが

【重なっているように見えるけれども」て。

「そがんことのあんもんこう

【そんなことがあるものか】」て。

「いんにゃあ。そいから、

そがんしか見えんじゃあ

【そんなにしか見えないよ】」

て言うて。

そうして今度(こんだ)あ、

「そいないば、あの、

あさん【あなたが】長持ちん上、

まあちょっと乗って、

あの、寝とってみんこう【寝ていてみなさいよ】。

そいぎ俺ゃあ、あの、なに、

下(しち)ゃあ寝とっけん【寝ているから】」

て言うて、

したぎにゃあ【そのようにして寝たら】、

「今度あ、どがんかーあ【どんなかね】」

て言うて。

「あら、やっぱい長持ちの上から見っぎぃ、

二つ重なってしか見えんやーあ【見えないかね】」

て、言うたて。

そうして、そん時もう、

ちい済みゃあたて【済ましてしまったと】。

[大話]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P69)

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