多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 和尚さんが、お経をあげよったわけ。

そいで、あげよったところが、

お膳の所で、芋の子が、

その、

「こんにゃくと豆腐は、どっちが偉か」

て言うて、

言いじゃあたて【言い出したそうな】。

そうしてしたぎと【そうしたら】、

「そりゃあ【それは】、俺(おい)が一番」

て、言うたて。

「俺がとにかく、

こんにゃくは朝から晩にクニャクニャして。

そいどん【しかし】、

俺(おり)ゃあ、色は白うし、

そうして、こんにゃく豆腐ては言わん。

必ず豆腐・こんにゃく・大根・

人参・牛蒡(ごんぼう)

・芋の子と言うことで、

芋の子で一番どんじぃ【最後】」

て、こうなったわけ。

そいぎぃ、

「そいから、その、今のそいからしても、

豆腐がこんにゃくよいか【よりも】上」て、

こうなったわけ。

そうしたぎ、今度(こんだ)あ、こんにゃくが、

「そいばってんて【しかし】、

俺ゃあ、とにかく、そがんクニャクニャして

色は悪かばってんが【悪いけれども】、

わさんな【あなたは】

色は白かばってんが【白いけれども】、

ちかっとでん、

つかゆっぎにゃあ【少しでも触れると】、

すぐ、うっ崩(くゆ)っじゃっかあ

【すぐ崩れてしまうじゃないか】」て、

こう言うたらしかもん

【こんなに言うたらしいよ】。

そいぎにゃあと【そうしたら】、

今度あ豆腐が、その、腹きゃあて【立腹して】、

「そいばってんが【しかしながら】、

あさんなそがん言うて【あなたがそんなに言って】、

えぇ、言おうばってんが【言うけれども】、

何ちゅうたてちゃあが【何と言っても】、

その、一番先、

えぇ、食うてもらうたあ【食ってもらうのは】、

豆腐が一番先、食うてもらうもん」と。

「そいけんが、何ちゅうたっちゃい、

やっぱいもう、その、俺が一番上」て、

言うてしたぎぃ、

今度あ、そのない、こんにゃくが腹きゃあて、

「そいない【それなら】俺が、

茹でこんにゃくしてくるっじゃあ【してやるぞ】」

て、言うてしたぎぃ、

そん時、茹でこんにゃくが始まったて。

今度あ、和尚さんが、お経ばあげよってしたぎぃ、

その、目の前のご膳の上で、

豆腐とこんにゃくと

喧嘩しおんもんじゃい【していたから】。

そいぎ和尚さんが、木魚ば叩きよいやったて。

そいぎぃ、叩きよったぎにゃ、今度あ、その、

そがんしおんもんじゃい【そんなにしていたから】、

その、何が、こんにゃくば先、

叩(たち)ゃあたち言うじゃんもん

【叩いたと言うらしいね】。

「茹でこんにゃくすっ」、

ち言うたもんじゃい。

そいぎ一番先、

こんにゃくが叩かれたぎにゃあ【叩かれたら】、

もうクニャアクニャアして、

答えんじゃったて【答えなかったと】。

その次、今度あ、その、

豆腐ば叩きやったてじゃんもん【叩いたから】、

和尚さんが。

そうして豆腐が、

形はなかごとびっしゃげて

【形はないようにつぶれて】、

のうなってしまうごと【なくなってしまうように】

その、うっ崩れてしもうたて。

そうしたぎその、芋の子が、

こい、おかしかったもんじゃい【ものだから】

トンビトンビして、そん時その、

笑(わる)うたらしかたい。

そいぎ笑うたぎぃ、和尚さんが、

「うんーが【お前が】その、わが目、一番先、

『豆腐とこんにゃくは、どっちが上かの』て、

詮索(せんさく)せんばことば、

うんが言うたけんくしゃあ【言ったから】」

ち言うて、

今度あ、ひどう叩(たち)ゃあたあ、

木魚で芋の子ば。

そいぎぃ、その芋の子がちかっと【少し】

半煮えしとったてっちゃん【していたそうだ】。

そうしたぎにゃツルイ滑って、そうしてしたぎぃ、

その芋の子のおらんてっちゃん【いないと】。

何処(どこ)さい行たこっじゃい【行ったかした】。

そいぎぃ、

芋の子おらんけんにゃあ【いないからねー】、

と思うて。

そいでまた、こうこうしよったけど、

ほんに音(ね)のいう鳴ったてっじゃんもん

【鳴ったらしいね】。

おかしかにゃあ、と思うて、その和尚さんが、

こうしてしおったぎにゃあと【こうしていたらね】、

木魚の割れ目のとけぇ、

芋の子のはさまっとったて【はまり込んでいたと】。

はさまっとったもんだから、その今んごと、

音がゆう鳴ったわけたんたあ。

そいぎぃ、そいもんだから【それだから】、

そいから先、

その、木魚は、

桑の木がいっじゃん良かて【一番良いと】。

やっぱい芋の子が咥(くわ)えとったぎぃ、

ほんに音の良かて、言うことから、

もう木魚は桑で作ったとが、

一番音の良かて、言うて。

そいから木魚は桑の木になったてったん、

て言う話。

そいまあっきゃ。

[大成 笑話新二四 目と口と喧嘩]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P59)

標準語版 TOPへ