多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴(明43生)

ちょうどその、米屋さんが集金に回って、

そうして来おったぎにゃあ【やって来ていたら】、

堤の土手んにき来たぎにゃあと【土手のあたりに来たら】、

野狐(ヤコ)の一生懸命、えぇ、泥ば体(からじ)ゃあ

塗(ぬ)すくいよったて【塗っていたと】。

塗いよったところが、今度(こんだ)あ、柴の葉ばまあ、

もういっちょいっちょ【ひとつひとつ】、こうひっ付けよったて【沢山つけていたと】。

そうして、しよったところが立派なその、お姫さんになったてじゃんもん【なったそうな】。

あはーあ、あの野狐は、えぇとこ【うまく】、

騙(だま)しおんにゃあと【騙しているなあ】思うて、してしおったぎぃ、後ろから、

「あら、あら。ほら、源さんかの」て言うて、

肩ば叩(たち)ゃあたてじゃんもん【叩いたらしいね】。

そいぎ叩ゃあたもんじゃい、こうして見てみたぎにゃあと【見てみたら】、

その、酒屋の番頭どんじゃったて【番頭さんであったと】。

そいぎぃ、

「おい。わさん【お前】、出んか」て。

「今のうない【今ならね】、野狐の向こうの土手ん所(とけ)ぇで、

泥ば塗すくいつくって【塗って】、そうしてそいが上、木の葉ばしたけん、

立派にあがんしてその、お姫さんに化けてしもうたぼう【化けてしまったよ】」て。

「俺(おい)が騙さるんもんかーあ【騙されないよ】」て。

「あいどんが、そがん狸てん、野狐てん、俺(おり)ゃあ 騙さりゃせんぼう【騙されないよ】」

て言うて、言いよったてじゃんもん【言っていたらしい】。

そうして、したぎその、狸が集金して、何を、その、米屋さんが金持っとんもんだから。

そいもんだから【それだから】、その、後ろから狸が、

「ああ、おんじさん。あの、今から俺(おい)も仕事にいかんばらん

【仕事にいかなければならない】。

そいけん【ダカラ】、いかんばらんけんが、小銭のいっけんが。

そいけんが、銭ば割ってくれんかのう」て、こう言うたらしいもん。

そいぎぃ、

「幾(いく)らこう」て。

「三両」

「三両も、あさん持っとっかーあ【お前持っているか】」

「うん。持っとっ」て言うて、その、

「そいが替えてくいろう【替えてくれ】。小銭のいっけんが【小銭がいるから】」

「そんない【それなら】、替えてやろうだーあ」て言うて、

今の酒屋の番頭が、その米屋さんに言うたちじゃんもん【言ったそうよ】。

そいぎぃ、その米屋さんが、

「そいないば」ち言うて、小銭ば三両たいのまい【三両ですよ】、

三両、小銭ばやったてっちゃんもん【やったそうよ】。

そいで、やって。

そうして今度あ、帰ってみて見たぎにゃあと【見ると】、

何(ない)もかいも【何もかも】柴の葉ばっかいやったて【柴の葉ばかりだったと】。

俺ゃ狸と野狐にゃ騙されん、

ち言いよったばってん【と言っていたけれども】、

最後にやっぱい狸から、【野狐は騙しきらんじゃった】

騙されて銭ゃ三両もおっ盗(と)られたてったん(三両も盗られてしまった)、

て言う話は、よう聞きよったたい【よく聞いていたよ】。

(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P23)

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