多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 えぇ、旱魃(かんばつ)の時にですね、その、猿が来て、

そしてその、田ん中を作いよっ人がその、

水を担(いの)うて、掛けよった。

ところがその、そうしよったぎぃ、その猿が来て、そして、

「そいない俺(おい)、加勢しようか」と、いうことで

猿が水を汲んで来て、そして今度(こんだ)あ、手伝ったわけですね。

そして、今度あ手伝ったところが、そこにきれいな娘がひとりおったて。

そいぎぃ、その娘をその今度、猿が、

「俺ぇその、嫁げぇ、くれんか」て、こう言うたらしい。

そいぎにゃさあ、田ん中(なき)ゃ水掛けてして

助かったことは良かったいどん【よかったけれども】、猿に、

「家ん娘ばくいられん」と。

「どがんすっかあ【どんなにしようかなあ】」ち。

「嘘(すら)ごとも言われんしにゃあ」と、いうことで、そしてその、

「そんないやろうだい」と、いうことでまあ、返事したわけですねぇ。

そしたぎぃ、その娘は、

「もうにゃ、俺(おり)ゃもう、その猿の嫁げぇにゃあ行こうごとなか」て。

「そいけんが、その、ばってん折角そがんなってしといないば、

行くた行こうだい」と、いうことで、

その嫁さん作りして、そして、そのチンコロを掛けて、そしてまあ、行くて。

その猿が迎えに来たて。

そして、猿と娘と親たちその橋の上に通りかかってきたわけ。

そいで橋の上に通りかかってきた時に、その娘が、

その簪(かんざし)をいっちょわざと落としたて。

そして落とした時に、その、そん時分に、その、甕(かめ)をいっちょ

背負(かる)わせようと、言うことで、その猿に甕を

くびいつけて【結びつけて】、そして背負わせたわけ。

そして今度あ、したぎその猿が、

「いや、そんない俺が取ってきてくるっ」

て言うて、その川に下りて、そいで、

「何処(どこ)んたいや【何処のあたりか】」

「うん、そこじゃなか。まちかっと先。まちかっと先」

ち言(ゅ)うて、だんだん、だんだん、深い所にあの、

猿をその簪のあっとけぇ、

「ちかっと先、まちかっと先」ちいうことで、したところが、

その背中に背負うとっ甕の中に、いっぴゃあ入って、

そしてとうとう猿は上がいきらじい、そして溺れて死んだってたん。

そいまっきゃ【それでおしまい】。

[大成 一〇三 猿聟入り]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P14)

標準語版 TOPへ