犬の片足小便

犬の片足小便

多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 あの弘法大師さんがですよ、おられて。

そして、お弟子さんが、

「あの、『笑(わらう)』という字はどがん書くぎよかろうか」

て言うて、その弘法大師に言われたて。そいぎぃ、

「『笑』という字は、どぎゃんかなあ【どんなかね】。どぎゃん作っぎよかかあ」

て言うて、その弘法大師は一生懸命考えて、そして「笑」という字を

どういう組み立てにしたこんなよかろうかにゃあと、思うてやいよったところが、

向こうの方から犬が、その、駆けてきたて。

そしてその犬が、その竹籠(かご)ばひっ被って来たて。

そして、その当時は、犬は三本足を持っとったて。

三本足じゃったらしいか。

そいぎその三本足で竹籠ひっ被って、

そしてその、こうまあ跛(ちんば)さん【足の不自由な人】のごとしてきたもんだから。

そいぎぃ、皆弟子でん誰(だい)でん弘法大師も、

もうおかしかったもんじゃい【おかしかったから】、笑うたらしい。

そいぎ笑うたもんだから、

「ああ、よし。わかった」と。

そいでその、竹籠を被ったけん、たけかんむりに犬を書くと。

そして「笑」と。

「ああ、こいでよかった。こいがよか」

ということで、弘法大師さんが、そん「笑」という字を

犬から教えてもろうたもんじゃから、もともと三本足じゃったもんだから、

そいもんじゃい【それだから】、後ろの足が一本と前が二つあるだけで。

そいもんじゃい、

「お前ば、とにかく四本の足にしてやろうにゃあ【ね】」と、

教えてくれたから、だから一本揃えて弘法大師さんが

犬に与えてやった。

ところが今度(こんだ)あ犬は、

「ああ、よかった」と。

「三本でほんに不自由やったけれども、

弘法大師さんから一本いただいた足だから、こいでよかった」

ということで、こりゃその、貰うたその足に小便まった時、

いっかかっどんすっぎにゃあ【かかるとね】、もう罰(ばち)かぶっ」と。

「だからもったいなかけん、小便のその足かからんごと」

て、いうことで、片足持ち上げて小便すっ、

ていうことを聞いとったですがね。

そいまっきゃ【それでおしまい】

[大成 六三 犬の脚]

(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P10)

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