川副町広江東 西村徳治さん(明35生)
あるその、余い頭のようなか夫婦おったなたあ。
そいぎぃ、その人がちぃっと妊娠したか、
つわりこっちゃい何こっちゃい、
お医者さんにみせぎゃ行かしたち。
そうしたら、お医者さんのほんに、
まあーだ若嫁で器量もよかもんじゃて、
「ちぃっと腹が動いたろう」て。
ばってんそがん、亭主もつんのうて来とっけんが、
やっぱし尻ンのすやったわけいかんもん。
お医者さん考えさした。
こりゃあ、ちぃっとこの男、たらんごたんにゃあ、
ちゅうところで、あの、檀那ば呼うで、
「こん人は、ちぃっと腫物のできとっとばい」ち、
「あんさんの嫁さんな、そいけんこい、
薬ば付けて、お前とに薬ば付けて、こう、
俺が印ば付くっけんが、そこまでちょうど入れんかい。
そうすっぎぃ、治うなっばい」ち言うばってんが、
いくらふうけとっちゅうばってんが、
お医者さんの前で乗るわけにゃいかん。
すっわけにゃいかんばってんもんじゃって、
「やあー、ちゃあがつかけんが、もういやばんたあ」
「しかし、そいばせんないばこう人たんの嫁さんな、
お前、命さしつかゆっばい」ち。
命さしつかゆっない、
どがんしゅうもなかばってんが、自分は、
どうしてお医者さんの前でされんもんじゃてぇ、
「もう、私にゃちょっと、先生、
あんたのしてくれんかんたあ」ち。
「いんにゃあ。俺もそがん、ちょっと調子の悪かけんが。
人、一人助くっこともない、もう、仕方なかたい、
そいやらじにゃあ」ちゅうところで、
自分とに印ばこう付けとって、真中ンにき。
そして、
「俺が入るっけんが、お前、ちょうど印の所ぇあの、
口のきた時、『ほら、今』ち言んばでけんばい」ち、
こう言うた。
そいぎぃ、上乗ってこうやっ。
そいぎぃ、印よい先さい入っちれて。そいぎぃ、
「入い過ぎました」ち、向こう見ながら言うち。
そいぎぃ、ひょっと引くち。
「出過ぎました。入い過ぎました。
入い過ぎました。出過ぎました」で、
何遍やったっちゃ、ちょうどゆういかんちゅう。
そいぎぃ、先生のちょうどよか時分に、
もう、済んでからちょうど止めさしたち。
「もう、今ちょうどよかとこでございます。
こいない病気は治うなっばい」ち言うて、帰さしたち。
(出典 未発刊)
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