佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)

 むかし。

その、お爺さんとお婆さんとおいなって。

猟師から撃たれて、苦しんどった、鶴が。

そいぎその、そこのお爺さんが、あの、あるところのお爺さんが、その鶴ば助けなっさい。

助けてなた、もう、してやいなっけんが。

そこがほんに貧乏てっちゃん。

もう借銭タラタラでなた。

そいぎんと、あぎゃんと、あくる日、ほんに雪の降いよっ時なた、

十七、八の娘になってくさんたあ、鶴が化けて来ってくさんたあ。

「ごめんください、ごめんください」ち、来てなたあ。そして、

「今晩その、道に迷うとっけんが泊めてください」ち、言うたんたあ。

そいぎそこは、ほんに貧乏してあっばってん、ほんに親切なたして、

「そがん迷うとっけんが、ほんに今日は寒かったろうけんが、囲炉裏の端にあたんなさい」

ち言(ゅ)うて、あたらせてなたあ、親切にして泊めなったんたあ。そいからその、

「自分なツル子」ちて、名ば言うもんなた。そしてからもう、

「ほんに、自分なここにおいてください」ち言(ゅ)うてくさんたあ、

「どがん働きでんすっけんが」ち言(ゅ)うてなたあ。

そいぎもう、そがん言うもんじゃい、そこは子どものおらんけんなたあ、

あぎゃんと、おきなったんたあ。そいぎツル子が、

「お爺さん、私(あたい)は機織ろうで思うとっけん、

その、町さい商売行たないば、糸ば買(こ)うて来てくんさい。縦糸ばなた」言うちその。

そいぎお爺さんの買(こ)うて来なっ。そいぎぃ、

「私(あたい)が織いよい間は、そのなた、この部屋は覗いては出来(でけ)ん」ち、

「部屋ば覗くことはなん【いかん】」ち言(ゅ)うなたあ。

そいぎんたあ、ほんに朝早うから夜(よ)さい遅うまで、もう稼いで織んもんなたあ。

カランカラン音のしてくさんたあ。

そうしてもう、立派(じっぱい)に織いあぐったんたあ。

もう本当(ほん)につるべの錦のごとなたあ。そいぎぃ、

「こいば町さい持って行た売っててけぇ」ち、言んさったん。

そいぎぃ、そいば売るっじゃろうかと思うて、持って行きよったぎなた、

ちょうどもう殿様のなた、通いかかってそいば恐ろしゅう高(たこ)う買(き)ゃあなんもんなたあ。

織った着物(きもん)ばくさんたあ。そして、

「こぎゃんきれいに織った着物ばくさんたあ、また持って来ぇ」ち、くさんたあ。

そいぎ喜うで帰って来てなたあ、もうお金ばどっさい貰(もろ)うて来んもん。

そいからもう、また織ってなたあ、そしてそがんして織って、そこがだんだんもう、

借銭も払うてしもうしなたあ、

もうほんにツツ子ちゅうとが器量もよかけんけんくさんたあ、誰(だい)でんえじょうしなたあ。

そしてある悪者(わるもん)が来てなたあ、

「織いよっとこばくさんたあ、見せろ」ち言うくさんたあ。そいぎと、

「でえけん」ち。「ここはもう、見すっことはでけん」ちなた。そいばってん、

「見せろ」て言うて、聞かんもんくさんたあ。そいばってん、

「見せん」ち言うて、もう強情張ってしよっばってん。

「もう、見せろ」ち言うて、押し分けて見ぎゃ行くたんたあ。

そいば行くぎもう、わが羽ば、毛ばなた、鶴のおぶけば取って、

うぶ毛で、太か毛じゃなし小(こう)まかおぶ毛ば取って、そいば抜かじなた。そして、

「雪の晩にその、助けられた鶴」て。

「恩返しになた、自分のツル子と人間の姿を化いて爺さんたちにに恩返しに来た。

もうこいでお別れすっ」ち。

そいけんが、もう毛は取っとけんヨロヨロなってなたあ、飛んで帰らしたて。

(出典 未発刊)

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