佐賀市成章町 宮地ニワさん（明39生）
むかしむかし。
あるところによいお爺さんと、悪いお婆さんのおいなったて。そいぎ婆さんの、
「お爺さん、お爺さん。椎拾いぎゃあ行こうい」
「うーん。そいもよかろう、そいぎ袋は」
「袋は私(あたい)持って来っけん」
お爺さんの袋は破れ袋、婆さんの袋はりっぱか袋て。
そうして、その、山奥の権現さんちゅうところに椎拾(ふり)ぃやあ行きないよったて。
そうしてもう、お婆さんなじき袋いっぴゃあなったて。
そいぎぃ、お爺さんな幾ら拾うたっちゃ拾うたっちゃ、いっぴゃあならんやったて。
そいぎもう、
「お爺さん、お爺さん。私(あたい)いっぴゃあなったけん、帰っばんたあ」
「そんない帰ってよかたんたあ」ち、帰なったて。
そいぎぃ、お爺さんなもう、日のくるう真っ暗ろうなんまで拾いなっばってん、
いっぴゃあならんやったて。そいぎもう、仕方なかけんが、
「権現さん、権現さん。今夜(こんにゃ)一晩泊まらせてくんさい」
「泊まらすっことはやすかことばってん、鬼に浮立打って来っばんたあ」
「浮立打って来たっちゃよかけんが、泊まらせてくんさい」
「そんないば浮立ちよっ最中に、トケコッコー夜の明けたあ、
パタパタパタち言(ゅ)うて、三遍言んしゃい」ち。そいぎんと、
その、そけぇ、寝といなったて。
そいぎもう、十二時過ぎなったぎんと、何処(どっか)からとなく鬼どんが、
「ヒュウーヒュウードンガンガン、ヒュウーヒュウードンガンガン、
ヒュウーヒュウードンガンガン」、浮立打って来たて。
そいぎ一時(いっとき)ようしてお爺さんの聞いとってから、一時(いっとき)してから、
「トッケコッコウー夜(よ)の明けたあ、パアタパタパタ。
トッケコッコウー夜(よ)の明けたあ、パアタパタパタ。
トッケコッコウー夜(よ)の明けたあ、パアタパタパタ」ち、言いなったて。
そいぎ鬼どんがもう、夜(よ)の明けたもいやいきゃんと思うて、そけ持って来とっもう、
浮立打ちよった品物(しなもん)でん、何(なん)でん、宝物(たからもん)でん、いっちぇーて、ドンドンドンで逃げて行たて。
そいぎぃ、お爺さんの夜の明けてから、そいばいっちぇーたっとば見て、
「権現さん、権現さん。昨晩なありがとうございました。
鬼どんがいっちぇーとった品物などどがんしたならよかろか」
「そりゃあまなたの拾うて行きんさい」ちてから、言いんさったて。
そいぎそいば袋に入れきらんごと拾うて持って行かしたて。
そいぎぃ、婆さんなまた、お爺さんのごとあぎゃんと、夜(よ)さい椎拾いぎゃあ来てなた。そけぇ、夕方なって来てから。
「権現さん、権現さん。今夜(こんにゃ)あ一晩泊まらせてくんさい」
「泊らすっことはやすかことばってん、鬼の浮立打って来っばんたあ」
「浮立打って来たっちゃよかけん、泊まらしせてくんさい」て、婆さんの言わしたて。
そいぎその、
「そいないば夜中にトッケコッコウー夜の明けたあ、三遍言んさいのう」
「はい、はい」ち言うて。
そいぎ寝といなったぎぃ、浮立打ちかかったぎぃ、そいば言うて、
「クスクスクス」と、笑(わる)わしたて。そいぎぃ、
「人間の泊まっとっ。こりゃあ」ち言(ゅ)うて。
「夕(よう)べもお前やったろう」ち言うて、婆さんばもう、
手取い足取いしてなた、塩つけていち食うたて。
そいばっきゃ。
（カマタツの婆さんから寝話で聞いた。）
（出典 未発刊）
