佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)
花嫁くさんにのう、立派いこしらえて駕籠から行きおっとば、
猿、猿の大猿(ううざる)が、その嫁くさんば連れて走った。
そいぎちょっと連れて走って、山ん中さい連れて走ってわからんたい。
幾ら探したっちゃ、どがんしたっちゃ。
そいぎ猿はもう、その娘ばもう、ほんに大事に大事にしてむぞうがって、
そしてわが嫁くさんにしてくさい、もうどがんしゅうでんなかもんない。
そいぎもう、その人はどがんしてなっとん逃げて行こうで思うて、
もうしとっばってん、もう逃げられんて。
そいぎんとは、子どものでけたて。
そいぎそいば、ちいっと油断ばしたやろう。
そいぎんとは、ちょうど川岸に、その木の穴ん中(なき)ゃあ、とっとったて。
そいぎんともう、木のどんかぶの太―かとの流れてきよっとば、取っとったやろうだい。
取っとったて、そいば。
そいぎもう、油断したない逃げて行こうと思うて。
そいばってんもう、なかなか油断はせんてっちゃん。
そいぎある日、しっきゃあその猿どんが何処さい油断して行たやろう。
そいばその娘嬢が、木のどんかぶジイジイジイて死んなったい。
そいぎその走いよっとば目ぇかかって。
そいぎちょっともう、真ん中に来た、泳いで行かれん、あがんともされんやろうが。
そいぎその、わが、その子ば、生んだ子ば股からこう引きしゃあで、食うたてっぱい。
そいぎもう、その人はちょっともう、どがんでんされん。
もう顔色なかごとなって、一所懸命なって、行かすとこまで。
(母は台湾のカオシュン〔高雄〕で聞いたと言う。)
(出典 未発刊)