佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)

 むかしむかし。

お爺さんとお婆さんとおって、子持たずてっちゃん。

そいぎその、二人(ふたい)連れなた、傘を作って町さい売いぎゃ行きないよったて。

そいぎもう、貧乏暮らしでやっぱい二人(ふたい)なた、暮らしおらしたて。

そうしたところが、今年ももう押し詰まって歳の晩になってきて、

餅も搗かれんけんが、早うその、今日はどうでんこうでん、

傘ば売ってこんば餅いっちょも搗かれん、正月はされんちて、

その、話して傘ばやっぱい四、五枚持って出て行きなったところが。

もう幾らふれて歩(さり)いても、雪のチラチラチラ降っ時、歩(さり)いても一枚でん売れんやったて。

そいぎぃ、お爺さんのもう、帰って来ないよったんたあ。

年ゃ取られんばってんなた、売れんもんじゃい仕方なし。

そいぎその、お地蔵さんのもう、雪のこう頭の上積もってなた、ひとっとば見とって、

「ほんに、お地蔵さんあんたたちは寒かろう。ぎゃんとけ野ぼっけに建って」ち言(ゅ)うて、

傘ば、お地蔵さんに被せなったんたあ。

そいぎその、一枚、一人(ひとい)前、傘が足らんて。

そいぎ自分のタオルばお地蔵さんに被せて帰なっじゃかんたあ。

そして、その晩に、もう家に帰って、

「売れたかんたあ、傘は」ち言うたぎぃ、

「傘は一枚でん売れん」ち。

「そいばってん、お地蔵さんたちの寒かろうと思うて、被せて来た」ち。

「うん、よかよか」ち言うて、その婆さんと二人、お粥どん食べて寝とらしたて。

そうしたところが、足音のドスドスドスで何人でん来なっ足音のして、寝とらすぎなた。

ドスッち、表ん置く足音のすってっちゃんもん。

ドスッち、何(なん)じゃいかんじゃい置きなっ足音だけしてなたあ、すっけんが、

おかしかねぇと思うて、そのお爺さんの戸ば開けて、出て見なったんたあ。

そいぎ表ん口もう、米とか、からすみとかなた、

もうお魚でん何(なん)でん、酒でんくさんたあ、そけぇ持って来て、運うでくいといなっ、表ん口。

そいぎぃ、姿のッチラッと見たとが地蔵さんの傘被って、列つくって帰ないよってっじゃん。

一人(ひとい)がタオル被って。

そいけんその、お地蔵さんのなた、お陰そぎゃんしてもろうたちゅうて、

その、お爺さんたちは、そいから成金になってようないなっちゅう話。

そいばっきゃ【それでおしまい】。

(出典 未発刊)

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