佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)

 むかしむかし。

あるところにお父さんと、お母さんと親子の中に子どものなかったて。

そいけんが、どがんしてなっとん、子どもの欲しかちゅうて、

お観音さんに願かけて娘の子の生まれたて。

そいけんが、そのお礼参りに、その娘ば連れて詣(まえ)いぎゃ行きなっとこ。

そいぎんと、その田圃道に、蛙が蛇から飲まれるっ時に、

ギャッギャッ言いよったけんが、

「蛇も殺すことなん、蛙も殺すことなんて、今日はお観音さんの命日じゃっけん、

どがんしてなっとん助けんばでけん」て言うて、しなっばってんが。

そいぎんとは、仕方なしあぎゃんと、詣ってから、詣ぎゃ行きないよったぎぃ、

今度あ向こうの山から、息子の子が籠いっぱい山蟹(やまがに)ば取って帰って来よったて。

そいぎその、

「その山蟹ば自分に売ってくれんか」ち。

「はい。売ってよか」ち。そいぎぃ、

「籠ぐるみ売ってくいろ」ち。そいぎ籠ぐるみ買(こ)うて、山さい持って行たて。

「何処から取ったか」ち言(ゅ)うぎぃ、

「何処、何処」ち。そいぎぃ、そこさい持って行たて逃がしなっ。

そして、お観音さんに詣って帰って来なったろうが。

お母さんの病気しなっとっけん、薬(くすい)ば買(こ)うたい、お粥ば炊いて食べさせろ。

米買う銭でんなかちゅうたけんのう、銭ばどっさいやって。

そいぎ喜うで子どもは帰ったて。

そして、そのお母さんな、お粥炊いて食わせたい、薬飲ませたいしたけんが、

ようないなろうだい。

そいから家(うち)じゃあ、

「今夜蛇がどがんじゃいして来っぎでけんけん」ち言(ゅ)うて、

大工さんば頼うで閉じまいばする。

そいから箱ば作って、娘はその箱ん中(きゃ)あ入れて、してもう、

あすこの親戚のしっきゃあ寄って来て、そして他の者(もん)な戸は開けんごとして、

丑(うし)三つ時に。

そいぎもう、ガッタンガッタン、そい前、

「俺が娘ばやっけんが、その蛙は助けろ。助けてくいろ」て、言いなっ。

そいぎんと、

「何時(いつ)来っか」ち言(ゅ)うぎんと、

「十二時過ぎに来っ。『蛇太郎』ち言うて、来っ」ち言(ゅ)うて。

そいぎぃ、来んごとちゅうて、早う帰って、そがん戸締いばしなろうが。

そいぎんとは、もうガッタガッタガッタで、

「蛇太郎が来たけん開けてくれ。蛇太郎が来たけん開けてくれ」ち言(ゅ)うばってん

、開けんやろうが。そいぎもう、戸の壊れやせんじゃいきゃんちゅうことで、

ガッタガッタガッタでいわすっ。

そいぎ家(うち)の者(もん)なもう、ハラハラしといなっ。

そん時に、その蟹どんがしっきゃあ来て、その蛇ば挟み切って殺すと。

そして、助くったい。そして、そのあくる日も、六時ごろもなって、

明こうなったもんじゃあ、ゴトゴト音のさんけんが、もう帰ったじゃろうかと思うて、

開けてみなったぎんとは、その戸口の際に蛇がしっきゃあ蟹から挟まれて死んどったて。

そいばっきゃ【それでおしまい】。

(出典 未発刊)

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