佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)
むかし。
あの、何(なん)ちゅうか、そこの娘嬢の、何(なん)ちゅうかにゃあ、
侍の良か人(ひっ)たんの娘の子じゃんのう。
そして器量の良かばってんが、何処(どっ)からでん嫁くさんに貰わるっばってん、
「あすけんや行かん、ふけにゃいかん」ち言(ゅ)うて、聞きないなかったちゅうたい。
そいぎんとは、あの、わが、一人(ひとい)あぎゃんとすっごともう、
隠居所のごとしてさい暮らしないよったて。
そしてある日、花見ぎゃじゃい何(なん)じゃい行たて。
そいぎんとその、一目で惚れなったて、その娘嬢の。
そいぎその人(ひっ)たんと近々(ちこちこ)すっちゅうごたっふうで、年中しないよったて。
そうしたところが、その男の来っぎんとはもう、恐ろしゅう熱の出なってっちゃん。
そいぎぃ、てっぽうはっぽうしてしなっ(重病で大変だの意)。
そいぎ熱んなかときゃキョロッとしとって。
そいぎんと、その人のまた来なっぎんと、もうそういうふうで熱の。
その、来っとも十二時から先しか来んてっちゃん。
そいぎほんにおかしか。病気と違うごたっちゅうふうで、
その、何(なん)、詣(まえ)-なったやろう。
そいぎんとは、その、お守(まぶ)いさんばやってさい。
そいから、針(はい)に白糸ば長(なーご)う縫うて、
「その、こいば知らんごと縫いつけろ」ち言う。そいでその、
「お守(まぶ)いさんば、ジーッと胸に引っ付けろ」ち言うて、言うてしなった。
そいぎんと、その娘嬢も言うこと聞いて、そがんしなったやろう。
そいぎその、その日は幾ら上がれちゅうたっちゃ、上がらんてっちゃん、その男が。
「上がんさい」ち言(ゅ)うばってん、もう良かごと言うばってん上がらんて。
「そんない、ちょっと上がろう」ち言うて、
上がったとけぇ、その胸にペタッと引っ付けられとっ。
そして、縫い付けた糸ばさい、尻尾(しっぽ)にぬいつけとったて。
そいぎもう、おろたえて帰ったて。
そいぎぃ、シャラシャラシャラ音んしてさい、鱗(うるこ)の音のすって。
そいぎつけて行たぎんとは、何処じゃい裏山の、あぎゃんと、
岩のほんな奥-に穴のほげとったて。
そいぎそこまで行かじぃ、そこの穴ん際(きわ)でたわれとったて、大蛇が。
そいが立派かその、若武者に化けとったて。
そいぎばあっきゃ【それでおしまい】。
(出典 未発刊)